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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜【累計10000PV達成!】  作者: 兎深みどり
第三章:空白の書編

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第52話『ひよりの残滓と、もうひとつの部屋』

 夜の図書館。

 人気のないその建物に、俺達は四人で入り込んだ。


 ひよりは俺のすぐ隣に立ち、白いワンピースの裾を静かに揺らしている。

 気配が殆ど無いのに、何故かその存在は確かに重い。


「……なんで夜中に図書館なんて……」


 愛菜がリュックを抱きしめながら呟いた。


 肩にはノクスが乗っている。

 彼はいつになく緊張した様子で、ずっと目を細めて前を睨んでいた。


「にゃう(あそこだ……奥の部屋)」


 ノクスの言葉に俺が頷くと、結先輩が不安げな顔で口を開いた。


「古文書室って……本来立ち入り禁止の場所よね。どうしてそんな所に?」


「さっきの“書”が反応した。たぶん……そこに何かがある」


 俺の手には、ひよりが持っていた《リーベル・イナーニス》がある。

 触れてからずっと、手のひらがじんわりと熱を持っている感覚が続いていた。


「この本が何を示してるか、俺にもまだよく分からない。けど――」


 言いかけたその時、古文書室の扉が“自ら”開いた。


 まるで待っていたかのように。


 


 ――ぎぃ……


 


「っ……!」


 開いた扉の向こうは真っ暗だった。照明の類は一切ない。


 それなのに、その奥から、誰かの囁く声が聞こえてきた。


 言葉にはなっていない。


 ただ、誰かが“こちらを呼んでいる”のは、確かだった。


「……入るよ」


 俺は《リーベル・イナーニス》を胸に抱え、扉の向こうへ足を踏み出した。


 それに続くように、ひよりがすっと隣に並ぶ。


 愛菜と結先輩はしばし躊躇したが、やがてゆっくりと足を動かし、あとを追った。


「にゃう(気をつけろ。ここは……“危険な匂い”が濃すぎる)」


 



 


 古文書室の中央には、埃をかぶった大きなテーブルと、それを囲むように並べられた椅子があった。


 だが、その中央に“何か”が置かれているのを見た瞬間、全員が息を呑んだ。


 それは、黒い箱に収められた日記のような冊子だった。


「……誰の、日記?」


 愛菜が小さく問う。


「私の、だと思う」


 ひよりが、静かに答える。


「思う、って?」


「思い出せないの。でも、その日記を見てると……心が、ざわつく」


 俺はその日記をそっと開いた。

ページは風化しており、インクも滲んでいる。


 だが、あるページにだけ――明らかに“後から書き足された”奇妙な言葉があった。


 


『目を覚ませ、浜野 京介。

 お前はすでに、彼女を見たはずだ』




 


「……先生の名前?」


 結先輩が息をのむ。


「でも、どうして先生の名前が……?」


「これが本当なら、先生は……過去にひよりと会ってる?」


「でも、先生は幽霊が見えないんじゃ……?」


「にゃう(それは表面だけにゃ。あいつは、“改造”されてるにゃ、あとこいつは恐らく幽霊ではなくて……)」


 愛菜がびくっと肩をすくめる。


「ノクス、それって冗談じゃないよね……?」


「にゃう(冗談なら、もっと面白く言うにゃ)」


 冗談ではないのだとしたら――この記述は、ただの記録じゃない。


 ひよりの過去、そして“誰かの記憶”が、ゆっくりと形を現し始めている。


 



 


 その時。


 部屋の片隅、閉ざされたキャビネットの中から、「コツ、コツ」と何かを叩く音が響いた。


 ノクスが即座に毛を逆立てる。


「にゃう(来るぞ。過去の影だ)」


 ひよりが、そっと俺の腕を掴んだ。


「……お兄さん。この部屋、開けちゃいけなかったかもしれない」


「遅いよ。もう開けた」


 俺はそう言い、目の前の暗闇に向けて、言葉を放つ準備をした。


 心眼が開き始める。

 言葉に出来ない“誰かの叫び”が、そこに渦巻いていた。


「――来いよ。全部、受け止めてやる」


 



 


 闇の中から現れたのは、“彼女”によく似た、別の“何か”。


 ひよりと瓜二つの少女の影が、微笑みながらこう囁いた。


 


「……私は、ひより“じゃない”よ」




 《真語断ち》が、発動の時を迎えようとしていた。


 次回予告


 第53話『虚ろなる鏡、名なき影』


 ひよりと瓜二つの少女──彼女は一体誰なのか?


 囁く声の正体は?


 “先生”の忘れた記憶に、今、触れようとする。


 闇の中で、言葉の剣が放たれる……!


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