第5話『ノクス、誘拐される〜地獄の一夜〜』
放課後・オカルト研究同好会 部室
「愛菜〜、今日ノクスの姿見ないけど……?」
「えっ? ええっ!? ノクスいないの!?」
リュックの中を覗く愛菜。
「……いない。いないいないいないいな……ニャアアアア!!?」
「落ち着け! ってか重さで気付かなかったのか!?ノクスはリュック以外の場所にいる時ってどこにいる?」
「……ゴミ箱の中……天井の梁……あと、お菓子棚の裏……」
「妖怪なのに、行動がほぼ猫」
「でも、勝手に外出るような子じゃないもん! 絶対誰かに連れてかれたんだよ〜!!」
その瞬間、ノクスの“気配”を感じ取った修が、ふと遠くを見る。
「……ヤベ。これ、霊的にやばい奴が怒ってる時の波長だ……。これノクスの怒気じゃ……?」
○○○○○
「にゃーう!!(殺すぞ!!)」
声にならないほど遠くで聞こえる、ガチの殺意に近い「ニャー」。
○○○○○
その頃・とあるアパートの一室
「へっへ〜、やっべー可愛い猫拾っちまった! SNSバズりまくり確定だわ〜」
自称“ペット系配信者”の大学生・笹山。
今日、ゴミ捨て場から出てきた黒い猫を「野良猫」と思って誘拐した男。
だが――
「……なんで俺のスマホ圏外なんだ?」
ノクスがソファの上で香箱座りしている。
「にゃあ(電波系統に干渉して麻痺らせた、てめぇが逃げられないようにな)」
「……え、今喋った? え? なんで人の言葉に聞こえる!?これはいいぞ!配信開始!!」
「にゃっ、にゃにゃっ(お前、よりにもよって、このおれをさらったんだぞ。どうなっても知らねぇからな)」
そしてその直後――
部屋の明かりが消えた。
そして、壁一面が文字で埋め尽くされていく。
《返せ》《返せ》《返せ》《返せ》《返せ》《返せ》《返せ》《返せ》《返せ》《返せ》
「ひいいいいいいいいい!!??」
○○○○○
部室・愛菜、大暴走
「もう警察行く! 飼い猫がさらわれたら警察行くしかないの!!」
「いや、ノクスは“猫型妖怪”だから……うーん、扱いが微妙……」
「でも大事な家族なんだよぉぉぉ!!」
怒りながら涙を流す愛菜。
そのとき、スマホに通知が届く。
《“謎の猫、喋ってる?!”って動画がSNSで話題に》
動画に映っているのは、ノクス。
だが、音声は「ニャー、ニャニャーン」しか入っていない。
「バカだな……言葉は録音に乗らないんだよ、アイツのは……」
修がため息をつき、スマホを閉じた。
「見つけた。行こうぜ、愛菜。拾い主に“地獄”を見せてやろう」
○○○○○
その夜・アパートの地獄
ドアを開けた修たちが見たのは――
部屋中に走る黒い影、裂けた壁紙、壊れた照明。
そして部屋の中央には、半泣きで正座している笹山。
その前で、ノクスが仁王立ちしていた。
「にゃあああああああ!!(二度と猫さらいなんかすんなよこのボケがぁぁ!!)」
「す、すみませんでしたああああ!! もう二度とやりませんんん!!」
「……バケモノ……バケモノだった……猫じゃない……猫じゃないぃぃ……」
修が部屋の結界を解除する。
ノクスは愛菜の足元に飛び込むと――リュックにスポッと入った。
「ノクスぅぅぅ〜!! よかった〜!!」
「にゃーん(やっぱ、こいつのリュックが一番落ち着くわ)」
○○○○○
帰り道
「……まぁ、誘拐されてもあそこまでやる妖怪も珍しいっすね」
「うちの子、やられたら倍返しだからね。妖怪だけど義理堅いの、あと半沢直樹にハマってるの」
「にゃ〜ん(今回は警告で済ませたが、次は……)」
「ノクス、もうちょい優しくなろ?」
「にゃー(あ?)」
「ひぃっ!」
怖い怖い……ノクスはこう見えて実は
かなり高位の妖怪らしい……
本人はそれを語らないらしいが
愛菜との出会いやノクスの過去は
また機会があったら……
“ただの猫”だと思ったら地獄だった。
人の善意に化けて忍び寄る本当の悪意とは――
第6話『部室大掃除!』
掃除しないとね!部室も人の心も……
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