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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜【累計10000PV達成!】  作者: 兎深みどり
第三章:空白の書編

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第49話『覚えていなくても、忘れてなかったもの』

 別の日。


 落陽が教室の窓を染める頃、光の届かぬ奥の隅に、一つの影がじっと佇んでいた。


 修は、その影を黙って見つめていた。

 姿はぼやけ、声はない。

 けれど、そこに確かに“誰か”がいる。

 そしてその“誰か”は、何度も修の名を呼んでいた。


 記憶にはない。

 思い出せない。

 けれど――胸の奥が疼いている。


「あんなに名前を呼んでくれてたのに……」


 ぽつりと呟く声が、教室の静けさに滲んだ。


「思い出せない俺が、悪いのかもな。……だけど」


 喉が詰まりかけたが、それでも修は目を逸らさなかった。


「お前の声は、きっと、ずっと……届いてほしかったんだよな?」


 その瞬間、影がふるりと震えた。

 教室の空気が微かに波打つ。


 背中のリュックがもぞりと動き、ノクスがするりと姿を現す。

 床に降りた彼は、ゆっくりと影の方へ歩み出る。


「にゃう(ずっと、言葉に出来なかったんだにゃ。その想いだけが、ここに残った)」


 影は言葉を返さない。

 ただ、そこに立ち尽くしている。


 だが、修には感じられた。

 心の奥に、誰かの“叫び”が、静かに渦巻いている。


 届かぬ想い。

 伝わらぬ声。

 失われた記憶の中で、ずっと彷徨っていた言葉達。


「しゅうくん……ずっと想ってた……でも、その想いを伝える前に……病気で……」


 無意識のまま、修の口から言葉が漏れた。

 自分でも驚くほど自然に、それは“彼女”の叫びと重なっていた。


「辛かったよな……悲しかったよな……伝えたかったよな……」


 声が、空間に染み渡るように響く。

 その瞬間、影が大きく揺れ、少女の輪郭が一瞬だけ現れた。

 そして消えかける。


 けれど修は、踏み出した。

 思い出せない事に、目を背けない為に。


「――真語断ち・弐式《叫返し》」


 その声と同時に、影の内側からこだまのような音が鳴る。

 言葉にはならない、けれど確かにそこにあった“叫び”が、修の言葉によって外へ引き出される。


「お前の想いは、届いた。誰にも届かなかった声、ちゃんと受け取ったから――」


 教室の空気が和らぎ、影の揺らぎがやさしく溶けていく。

 どこにも行けずにいた“想い”が、ようやく形になったのだ。


 影は微かに頭を下げたように見えた。

 そして、何も言わず、音もなく、夕暮れの光に溶けていった。


 それと同時に鈴が地面に落ちた。

 


 「しゅーくん!無事っ!?」


 愛菜が駆け寄ってくる。

その後ろには、結がやや遅れてやってくる。


「雨城君!」


 二人の顔を見て、修は安心したように息を吐いた。


「……大丈夫。終わったよ」


 その声に、愛菜も結もほっとした表情を浮かべる。


 ノクスが二人を見上げ、小さく呟いた。


「にゃう(ようやく、伝えられたにゃ)」


 

 数日後。部室。


 修の机の上に、小さな鈴が置かれていた。

 古びたもので、裏にはうっすらと名前が刻まれている。


「この名前……見覚えある気がするんだけど」


 結が、古い名簿と照らし合わせながら言う。

 だが、どの記録にも彼女の名前は載っていなかった。


「ボクも知らないなぁ……でも、なんかちょっとだけ懐かしい気がする」


 愛菜が鈴の音を鳴らす。

 澄んだ音が、部室にふわりと響いた。


 修はその音を聞きながら、ゆっくりと口を開いた。


「小学校の頃……一緒に帰った事があった子だと思う。

 でも、それっきりで、何も覚えてない」


 彼は静かに続けた。


「きっと俺は、あの子の事……忘れようとしたんじゃなくて、気づいてなかったんだ。それでも――心の奥には、ちゃんと残ってた」


「にゃう(だから、会えたんだにゃ)」


 ノクスが優しく言った。


 名前は思い出せない。

 顔も声も、すっかり曖昧だ。

 けれど、ひとつだけ確かに分かる。


 “想いは、消えなかった”。

次回予告


第50話『ささやく夢と、目覚めの声』


 繰り返される謎の夢。

図書室の奥に眠る、白いワンピースの少女。

彼女――ひよりが静かに目を開ける。


 何かが動き出す。

それはまだ、名前を持たない“書”の気配。


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