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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜【累計10000PV達成!】  作者: 兎深みどり
第三章:空白の書編

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第48話『名を呼ぶ影』

 ギィ……と、古びたドアが僅かに開く音がした。


 修達が立つ旧校舎の廊下。

 その先の教室の扉が、誰の手も触れていないのに、ゆっくりと内側に開かれていく。


 他の教室も開いてはいるが、その部屋から漂う気配が、その部屋に何かがあるのを物語っていた。


「……“入ってこい”ってか」


 修は懐中電灯の光を細く絞り、開いた扉の奥を照らす。


 その先には――何もない。


 黒板も机も、全てが埃をかぶり、時間に打ち捨てられたままだ。


 けれど、空間には確かに“気配”があった。


「ここ……息苦しい」


 愛菜が肩をすくめると、ノクスがリュックから身を乗り出した。


「にゃう(重いな……残ってる、“感情”が)」


 教室の中央に、一つだけ椅子があった。

 そこに、誰かがいたような“気配”。


 修が一歩踏み出し、静かに呟いた。


「ここで……何かがあった」


 その瞬間。


 教室の奥、黒板の前に――“それ”はいた。


 薄暗い空間にぼんやりと立つ人影。

 性別も年齢も定かではない。

 顔はぼやけて見えず、ただ、まっすぐにこちらを見ている。


「……お前は、誰だ」


 修の声に、影は小さく首をかしげる。


「……呼んだのは、お前か?」


 返事はない。

 ただ、影の手が、黒板に向かってすっと伸びた。


 その指がなぞるように動くと、黒板に白いチョークの文字が浮かび上がる。


 “しゅうくんへ”


「……!」


 思わず、愛菜が息を呑む。


「しゅーくんの事……?」


「……これは、俺の」


 修の頭の中に、過去の記憶がよぎった。


 その声。

 呼ばれた名前。

 あの日、校舎のどこかで――


 だが、その先の記憶は、ぼんやりと霞んでいる。


 影が、再び動いた。


 今度は、チョークでこう書いた。


 “どうして、来てくれなかったの?”


 胸が、締めつけられるような感覚。

 修の喉が、かすかに鳴った。

 胸の奥で、何かが引っかかる。

 けれど――思い出せない。


「……ごめん。俺は……お前の事を、覚えていない」


 その言葉に、影の身体がかすかに揺れた。


 チョークが再び黒板に走る。


 “どうして、来てくれなかったの?”


 修は、拳をぎゅっと握りしめた。

 その言葉が、胸の奥に刺さる。


「……その日、何があったのか……何を約束したのか……思い出せない。だけど」


 視線を逸らさず、まっすぐ影を見据える。


「お前が、俺を待ってた。それだけは、伝わってきた」


 黒板の文字が、また変わる。


 “こわかった。さみしかった”


 その時、ふっと教室の空気が揺れた。


 影がかすかに崩れかけるように揺れ、そして、また形を保つ。


「……苦しんでる?」


「言葉に出来なかった“何か”を、ずっと抱えたまま……」


 修は目を伏せ、そっと拳を握った。


「……なら、俺が聞く。お前の叫びを。お前の痛みを」


「にゃう(しゅー……“弐式”の出番だ)」


 修の瞳が、わずかに光を帯びる。


「“真語断ち・弐式”――いくぞ」


 声に出したその瞬間、教室の空気がまた一変した。


 影の内側から、沈んでいた“言葉にならない叫び”が、静かに漏れ始めた。


 ノクスの声を背に、修は静かに目を閉じた。

 心眼が、影の内側を覗く。


 そこには、“叫び”があった。


 ――どうして来なかったの

 ――どうして笑ってくれなかったの

 ――どうして、忘れたの


 修は目を開け、口を開いた。


「……俺は、お前との約束を……守れなかったんだな」


 自分の言葉が、黒板に書かれた言葉と重なるように思えた。


「……ごめん。全部、忘れてた。お前の事も、名前も、声も……」


 声が震えた。


「でも、それでも……“いま”なら、向き合える。もう逃げたりしない」


 影が、一歩こちらへにじむように近づいてくる。


 その手が、最後にひとこと、黒板に記した。


 “また、来てくれる?”


 修は、ゆっくりと頷いた。


「……ああ。思い出すまで、何度でも」


 影は、微かにうなずいたように見えた。

 そして、黒板の前から、静かに消えていった。


 教室には、深い静寂だけが残っていた。

 次回予告

 

 第49話『覚えていなくても、忘れてなかったもの』

 

 かすかに残る温もりと、名前すら思い出せない面影。

修の中に少しずつ積み重なる“彼女”の記憶。

だがその記憶の奥には、決して触れてはならない“扉”があった――。


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