第45話『動き出す影』
夜の大学構内は、日中の喧騒とは打って変わって静まり返っていた。
研究会の部室にも、やがて日が落ち、薄暗い照明のもとで修達は荷物の整理をしていた。
「ふぅ……今日は思ったより消耗したな。あの子の“笑顔”、なかなか効いたぜ」
修が首をぐるりと回し、肩を鳴らす。
愛菜はリュックにノクスをぽすっと収めながら、こくんと頷いた。
「しゅーくん、今日の“真語断ち”……ちゃんと響いてた。あの子、最後には……」
「微笑んでたね」
結が言葉を継ぎ、ふんわりと微笑んだ。
「……やっぱり、雨城君の言葉って、誰かを救う力があるんだと思う」
「いや、俺はただ……見えたもんに、見えたまんま言ってるだけさ」
修が照れくさそうに頭を掻いた、その時。
バサリッ
掲示板の前で、一枚の紙が落ちた音が響いた。
「……今、誰か……?」
結が顔を上げると、掲示板に、奇妙な“手書きのメモ”が貼りつけられていた。
まるで、さっきまでなかったかのように。
紙は黄ばんだコピー用紙。そこには、たった一行――
『次は、お前達だ』
黒インクで雑に殴り書きされた文字。
誰かの“怒り”のように、かすれ、揺れている。
「っ……何これ、やだ……!」
愛菜が思わず修の背中に身を寄せる。
「誰かの、いたずらか……?」
修が紙を手に取った瞬間――
ヒュン……カサ……ッ
窓の外を何かが通りすぎた。
人影のような、獣のような、形のない“何か”。
修が反射的に窓辺へ駆け寄り、外を見下ろす。
だが、そこには誰もいない。
「今の……見えなかった。でも、気配は残ってる」
愛菜が、真剣な声で呟いた。
「にゃう(……これは、“誰か”が動いてるな)」
ノクスの瞳が細く鋭く光る。
修は掲示板の紙をじっと見つめたあと、低く呟いた。
「“次は、お前達だ”……か。どうやら、こっちが仕掛けなくても、相手から来るらしいな」
「また、何かが始まりそうですね……」
結の声には、わずかに緊張が混じっていた。
部室の窓の外。
誰もいないはずの中庭に、ぽつんと立つ影がある――
それは、月を背にして、ただ静かにこちらを“見上げていた”。
闇に溶け、やがて消えるその影の輪郭は、どこか“懐かしさ”すら感じさせるものだった。
次回予告
第46話『ささやきの始まり』
誰もいないはずの夜の廊下で、微かな声が名を呼ぶ。
“コン……コン……”と、教室の扉を叩く音。
それは、確かに修に向けた“呼び声”だった。
――雨城修。聞こえる? ここに、いるの。
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