第42話『ばあちゃん式・地獄の霊力修行③:心眼覚醒』
「……うう、全身がバラバラになりそう……」
俺は地面に倒れ込んでいた。
汗も霊力も出し尽くし、もう立ち上がる気力すらなかった。
だが、ばあちゃんはそんな俺をニッコリと見下ろして言った。
「さあ、仕上げといこうかのう。最後は“心眼”じゃ。お前の魂に眠る“視る力”を、いよいよ目覚めさせる時じゃよ」
「ちょっと待ってばあちゃん……この流れ、どうせ穏やかじゃ済まないだろ……?」
「ふっふっふ、ようやく察しがよくなったのぅ」
ばあちゃんは懐から取り出したのは、真っ黒な盃だった。
中には赤黒い液体がたぷたぷと揺れている。
「……それ、もしかして“飲む系”?」
「“魂の目覚め”じゃ。“見るなかれの霊薬”。飲んだ者は、自らの内に棲む“真実”を視る。幻か現か、正気か狂気か、それを見極める力を得るのじゃ」
「もうその説明が狂気なんだよ!!」
それでも——逃げる訳にはいかなかった。
俺は震える手で盃を受け取り、ぐいと一気に飲み干す。
「……ッ!」
口の中に、土と鉄と苦みが広がる。
瞬間、意識が裏返り——視界が、真っ白になった。
——気づけば、俺はどこかの“原風景”に立っていた。
懐かしくも見知らぬ風景。
静まり返った草原の中心に、ひとりの少年が立っていた。
……いや、あれは——俺だ。
「なんだ、これ……?」
過去の記憶か?
それとも、魂の奥底にあるイメージなのか。
少年の俺は何かに怯えている。
目の前には、ぼんやりと立つ“幽霊”の影達。
怖がりながらも、目を逸らさずにじっと見つめていた。
「視るのが……怖い。でも、逃げたら——負けだよな」
その言葉が、胸の奥に刺さる。
気づけば、俺の額に淡く光る紋様が浮かんでいた。
視えないものを視る。
視たくないものも視る。
けれど、それを受け止める覚悟が“心眼”なのだ——
――パチン。
次の瞬間、俺は“霊力の間”に戻ってきていた。
そして——
「見える……見えるぞ……!」
まるで目を閉じたままでも霊の“位置”が感知出来る。
更に——微かな“感情”すら読み取れる。
「よくやったのお、修。ようやく“視る者”としての一歩を踏み出したようじゃな」
「ばあちゃん……ありがとう」
「ふふふ、その代わり、これからは見たくないモノも全部視えるぞい?」
「その発言、今凄く重たいんだけど!?」
「にゃう……(ようやく見えたか。お前も“本物”になったな、しゅー)」
こうして俺は、ばあちゃん式・地獄の霊力修行を乗り越え、
ついに——“心眼”という新たな力を手に入れた。
だが、この力が“何を招くか”までは、まだ知る由もなかった。
次回予告
第43話『対話と咆哮』
言葉が牙を持つ時、
牙が心を穿つ時――
修とノクス、初の“本気”の手合わせ。
その眼が覗いたのは、闇の奥に揺れる“過去の記憶”。
そして夜が深まる時、
“彼”は静かに、その姿を変える。
「……やれやれ、本気を出す羽目になるとは、にゃう」
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