表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜【累計10000PV達成!】  作者: 兎深みどり
第二章:七不思議編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/185

第33話『七不思議⑦:花子さんの集会場(中編)』

「……あ・ま・ぎ、く・ん」


 その声は確かに、俺の名前を呼んだ。


 だけど、それは俺が知っている声じゃない。

まるで、誰かの口真似。

 薄っぺらで、感情のない、“真似しただけの声”だった。


 「なりに、きたんでしょう?」


 花子さん達が、ぬるりと笑う。


 その顔が――どんどん、俺達に似てきていた。


「しゅーくん……顔……!」


 愛菜が、恐怖に染まった声で叫ぶ。


 懐中電灯を向けると、一番前の花子さんの顔が、

ほんの少し――俺に似ていた。


 輪郭、肌色、口元の癖。

 俺を“写して”きている。


「こいつら……誰かを“写して”、なりかわるつもりだ……」


 俺が言った瞬間、背後で結先輩が小さく叫んだ。


「やめてっ!」


 結先輩の足元に、何かが絡みついていた。

 トイレの個室から伸びた、長い髪の束。


 それはまるで生きているように、彼女の足首を捕らえ、床へと引きずろうとしていた。


「結先輩っ!」


 駆け寄って、その髪を振り払おうと手を伸ばす――が、指先が触れると、ずるりと手に巻きついた。


 髪の感触じゃない。ぬるりと冷たく、皮膚のような何か。

 それは――“人の頭皮”に、近かった。


「にゃ、にゃう!(やばい!引きずられる!)」


 ノクスが小さく叫ぶ。

 愛菜が咄嗟に結先輩の腕を引っ張り、俺もその腰を支えた。


 ――ズル……ズル……


 髪は床に溶けるように伸び、背後の個室に引き込もうとする。


 「“代わり”がいれば、出られるの」

 「“代わり”がいれば、自由になれるの」

 「私達、ずっと待ってた」

 「七つ、揃うのを」


 声が増えていく。

 後ろ、横、上――どこからでも、同じ声が響く。


 まるで、トイレそのものが、意思を持ち始めているかのようだった。


 結先輩の足が、半分まで個室の中へと吸い込まれていく。


 その時。


 パリン!


 誰かが、鏡を割った。


 愛菜だった。

 彼女は持っていた予備の懐中電灯を、壁に叩きつけて鏡を割った。


「“映すもの”がなければ、写せないでしょ!!」


 叫んだ彼女の目は、本気だった。


 その瞬間――

 結先輩を引きずっていた髪が、ビクンッと震え、溶けるように引いていった。


「……っは……あ、ありがとう……」


 結先輩が息を荒げながら、俺の腕を握る。


 花子さん達が、動きを止めていた。


 いや――動きが、再構成されている。


 彼女達は、再び“同じ顔”へと戻り始めた。


「鏡か……そうか、あいつら、“姿を写すもの”を通して模倣してたんだ……!」


 だけど、安堵は一瞬だった。


 花子さんの一人が、次に、愛菜の名前を呼んだ。


 「き・み・ど・り、あ・い・な」


 今度は、ぴったり同じ声だった。


 口調も、言い回しも、まるでコピー。


 愛菜がその場で固まる。


「な、なんで……ボクの声……」


 俺の背筋が、冷たく凍る。


 “彼女達は、鏡がなくても――すでに“見ていた”のかもしれない”。


 ノクスが、愛菜の首筋にぴたりと張りつくように乗った。


「にゃう……(耳をふさげ。聞くな)」


 だがもう遅い。


 花子さんの列の中から、一体が、愛菜とまったく同じ声で、言葉を発した。


 「ボク、かわってあげるよ」


 それは、確かに愛菜の声だった。


 愛菜自身でさえ、否定できないほどに――完璧な“模倣”。


 その瞬間、トイレの奥から――誰かの足音が響いた。


 コツン、コツン、コツン……


 それは、ハイヒールのような硬い音だった。


 個室の一番奥の扉が、ゆっくりと――


 開いた。

 次回予告


 第34話『七不思議⑦:花子さんの集会場(後編)』


 最奥から現れたのは、すべての花子さんを束ねる“最初の彼女”。

鏡を割っても、声を封じても――終わらない“なりかわり”の連鎖。

選ばれるのは誰か。そして、“代わらない”為に必要な条件とは――。


 最後まで読んでいただきありがとうございます!

評価(★★★★★)やブックマークで応援していただけると嬉しいです。

続きの執筆の原動力になります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ