第31話『七不思議?:小休止と大富豪』
夕焼けが、部室の窓をほんのりオレンジ色に染めていた。
テーブルの上には、よれたトランプの束と飲みかけの紅茶。
久しぶりの平和な時間に、俺達はそれぞれの席で少し気を抜いていた。
「はいっ、革命っ!」
愛菜がニッと笑ってカードを場に叩きつける。
「マジかよ……また革命?」
俺の手札は、強かったはずなのに一気にゴミクズと化した。
「ふふん、ボクの読みは完璧だったね〜」
愛菜が得意げに胸を張ると、肩に乗ったノクスがしっぽで俺の方をピシリと叩く。
ノクスが勝ち誇ったように愛菜の肩に乗る。
俺はその尻尾をじと目で睨んだ。
「……なあノクス、お前、今どっち応援してんだよ……」
ノクスは「にゃう」と一言だけ鳴くと、満足げに目を細めた。
意味は分からない。でも、その態度で大体察する。
「こういうの、久しぶりだね」
結先輩が紅茶を口に運びながら、ぽつりと呟いた。
「七不思議の調査でバタバタしてばっかだったから……なんか、こういう静かな時間が変に落ち着かないっていうか」
「確かに。毎回事件じみてるから、ボクもう体力ないよ……」
「にゃう(おまえ、遊んでただけだろ)」
ノクスがすぐにツッコミを入れるが、もちろんそれを聞き取れるのは愛菜だけ。
愛菜はむっとして肩をすくめた。
「ノクス!ボク頑張ったんだよ!走ったりとか!」
笑い声がこぼれて、部室にぬるい安心感が広がる。
けれど、その空気は次の言葉で少しだけ変わった。
「そういえば……次が、七つ目だったよな?」
俺の言葉に、二人が静かに頷く。
「“花子さんの集会場”よ。場所は旧校舎の女子トイレ」
結先輩が取り出したメモ帳には、これまで調査した七不思議のリストが整然と並んでいた。
「花子さんって……あの、“3番目のトイレに”って奴か?」
「そうなんだけど、ちょっと違う。集会場って呼ばれてるのは、複数の“花子さん”が集まるからなの」
「複数……?」
「夜になると、誰もいないはずの個室から笑い声が聞こえたり、鏡に別の誰かが映ったり。人によって体験談が違うけど、どれも“一人”じゃないって言うのよ」
「にゃう(妙だな……)」
ノクスがぽつりと呟くと、愛菜が一瞬だけ表情をこわばらせる。
「どうした?」
「ううん、なんでもない。……でも、気をつけた方が良いかも。今までの七不思議とはちょっと……違う感じがする」
「違うって?」
「理由はわかんない。でも、こう……空気が変わってるっていうか」
「……まぁ、最後だしな。何かあってもおかしくないか」
俺は思わず腕を組んでマップを見た。
赤ペンで印された七つの×印。
全て、今まで調査した場所と一致している。
そしてそれを囲むように、中心にぽっかりと空白があった。
「ここって、何かあるのか?」
ぼんやりとそう呟くと、ノクスが前足で中央をちょんと叩いた。
「にゃう(行き着く場所だ)」
それが何を意味するのかはわからない。
でも、妙な既視感だけが胸に残った。
「ま、考えすぎだよな。まずは七つ目を片付けてからだ」
俺はそう言って、片付けられたトランプを箱にしまった。
「気を引き締めて、いこう」
結先輩も紅茶を飲み干して立ち上がる。
愛菜も、少しだけ緊張した顔で頷いた。
「ね、しゅーくん」
「ん?」
「……なんか、全部終わった後って、何か変わってそうだよね」
「……かもな」
ただの怪談。でも、どこか違う。
そんな曖昧な不安を残したまま、俺達は次の七不思議へ向かう事にした。
次回予告
第32話『七不思議⑦:花子さんの集会場』
旧校舎の奥、使われなくなった女子トイレ。
夜な夜な、誰かの笑い声が聞こえるという。
一人じゃない足音。映るはずのない姿。
七つ目の不思議が、静かに扉を開く――。
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