第30話『七不思議⑥:次はお前だ(後編)』
パソコンの起動音が止んだ。
教室に並ぶ古びたモニターの一つが、カタカタと震えながら起動を始める。
その光だけが、暗闇の中にぼんやり浮かび上がっていた。
「何か……嫌な音したよね、今」
愛菜が俺の腕を掴む。
ビビりすぎて爪立ってる。
痛い。
画面に、文字が浮かんだ。
『選定中……』
「にゃう(選ばれるぞ)」
ノクスの声に、愛菜の肩が跳ねた。
「だから何がぁ!?」
「にゃう(この“場”にいる誰かを、“主”が気に入れば、そいつを次に指名する)」
愛菜が訳す前に、俺はノクスのリュックに目を向けた。
「……いや、なんとなく嫌な予感はしてたけどな」
モニターが、一瞬ちらついて止まった。
そして──
『キミドリ・アイナ』
「――えっ!?ちょ、なんでボク!?」
「名字で呼ばれるの珍しいな」
「そっち!? なんか他人行儀で逆に怖いよ!」
「にゃう(反応した。恐怖を感知したようだ)」
愛菜がノクスの言葉を訳す。
「ボク悪目立ちしたの!?え、やだっ、なんかやだよこの展開っ!」
その瞬間、コンピューター室の扉がガンッ!と揺れた。
俺達は反射的にそちらを向いた。
「開かないって言ったのに……動いてる?」
結先輩が、警戒するように一歩前に出る。
再びガンッ!
ドアの隙間から、何かが覗いた。
白い指先が、ギリギリと扉の隙間を押し広げていく。
「……うわ、完全にホラーじゃん」
「にゃう(“連れていこう”としている)」
「誰を!?……やっぱボクかあああっ!?」
その時だった。
――ブチッ!
モニターのケーブルが、突然何かに引きちぎられた。
画面が消える。
同時に、教室内のモニターたちが一斉にバチバチとショートを起こし、火花を散らす。
次の瞬間、バァン!と扉が大きく開き――
そこには、誰もいなかった。
「……え?」
静寂が戻る。
「な、何これ……今の、怪異が……止まった?」
「にゃう(外部からの干渉だ。別の“力”が働いた)」
愛菜が通訳した。
「だってさ。なんか外から、助け舟が来たみたいな?」
俺はノクスのリュックを軽く小突いた。
「……お前な、そういう大事な事をもっと早く言えよ。殴るぞ」
「にゃう(やれる時にやるのが美学だ)」
「……ノクス、うざっ!」
愛菜が安堵のあまり、へたり込む。
「ボク……次って呼ばれて……絶対連れてかれるって思ったのに……! やだもうっ……明日は甘いもん食べ放題にする……」
「勝手に宣言してろ」
俺はふと、今は暗くなったモニターの一つに近づいた。
画面は真っ黒だ。だがその中に、確かに見えた。
一瞬だけ、映った“何か”。
顔のない教師のようなものが、教壇の後ろに立っていた。
「……“あれ”、まだいるな」
「にゃう(去った訳じゃない。“次の名前”を、探してるだけだ)」
それが、誰になるのか。
俺か、結先輩か、ノクスか――いや、無いな。
今度“選ばれる”時は、逃がしてもらえない気がする。
次回予告
第31話『七不思議⑦:小休止と大富豪』
七不思議巡りもいよいよ佳境。
疲れた俺達は部室でちょっと一休み。
トランプで大富豪を楽しみながら、
次に挑む七つ目の不思議の話が自然と出てくる。
ほんの少しの休息が、また新たな決意を呼び覚ます――。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
評価(★★★★★)やブックマークで応援していただけると嬉しいです。
続きの執筆の原動力になります!




