第3話『消えたお母さんの手紙』
2025年8月16日 加筆
放課後・オカルト研究同好会部室。
「雨城君、今日って何か調査する予定ある?」
「いや、今日は“まったり活動日”です。
俺、怖い話まとめの新着チェックしますんで」
「じゃあ、私、部室の掃除でもしようかな〜」
「手伝いますよー。ノクス、そこどいて」
「にゃーん(頑張れよ人間共!)」
「ノクスがサボってる〜」
愛菜がリュックに手を突っ込むと、中から抵抗するノクスの手(前脚)が飛び出てくる。
ひっかき攻撃を受けつつ、愛菜は笑いながら応戦。
その横で、結先輩は本棚の奥をガサガサと探っていた。
「……あれ? これって……」
彼女が引き抜いたのは、古びて薄汚れた封筒だった。
「なんか、奥に落ちてたの……多分誰かの手紙かな?」
修はそれを受け取ると、すぐに眉をひそめる。
「……先輩。これ、霊気こもってますよ」
「えっ!?」
「しかも、この霊気……すげぇ優しい。多分これ、“亡くなった誰かが、大事な人に宛てた手紙”です」
「……まさか……」
先輩の手がかすかに震える。
宛名はほとんど消えていたが――
「これ、“黒咲 結へ”って……書いてある」
○○○○○
翌日・帰り道
「結局、中身は読めなかったね」
「紙も劣化してて、文字が滲んじゃってるんだもん……。でも、きっと――お母さんが書いたんだと思う」
修は一瞬迷ったあと、静かに口を開く。
「……先輩。もし、嫌じゃなければ……お母さんのこと、教えてくれませんか」
結先輩は歩みを緩め、少しだけ息を整えるように深呼吸した。
「……十五年前。私が五歳の時の事。家の近くの古い建物の前を、お母さんと手をつないで歩いてたの。その時――空が一瞬暗くなった気がして……」
耳に、低くうなるような音が届いた。
何かがきしみ、崩れる音。
次の瞬間、瓦や木材が裂けるような轟音が空気を裂いた。
「お母さんは何も言わず、私を強く抱きしめた。凄く暖かくて……でも、息が苦しいくらいで。背中に何かがぶつかる鈍い音がして……世界が土と砂埃で真っ白になった」
幼い結の視界に残ったのは、お母さんの胸元にあったペンダントの光と、耳元で微かに聞こえた声。
――大丈夫。怖くないよ。大丈夫、大丈夫だよ。
「気づいたら……私は無傷で立っていて、目の前にお母さんが倒れてた。何が起きたのか、頭では分かってたけど……その時は、ただ揺すって、泣いて、名前を呼び続けた」
結先輩は歩道の端に立ち止まり、うつむいたまま唇をかむ。
修は言葉を探したが、胸が詰まって声にならなかった。
その時、ふわりと白い影が彼の視界に舞い降りた。
結先輩の母親の霊だった。
柔らかな笑みを浮かべ、風の中で娘を見つめている。
「……ずっと、そばにいたんですね」
「え?」
「――いや、独り言っす。先輩が怖がらないように言わなかったけど……お母さん、ずっと見守ってました。で、多分手紙も、“自分では渡せなかったから、俺らに見つけさせた”んですよ」
「……」
「安心してください。あなたの気持ち、ちゃんと届いてましたよ。“ずっと守ってた”って、そう言ってました」
「――そうなんだ」
ぽつりと、それだけ呟き、結先輩は涙をこぼした。
その涙は、十五年分の痛みと、ようやく届いた想いの温かさが混ざったものだった。
○○○○○
数日後・部室
「はいこれ。印刷しておきました。スキャンして少し補正かけたら、手紙の文字、うっすら出てきたんすよ」
修が差し出した紙には、ほんの数行だけ、読み取れる文字があった。
ーーーーーー
結へ
あなたが幸せであるように、祈っています。
どんなときも、あなたの味方です。
ずっと、そばにいるよ。
ーーーーーー
「……お母さん……」
結先輩は、もう一度小さく微笑んだ。それは、これまでで一番――安心したような笑顔だった。
ソファの上
「にゃあん(やっぱ霊ってのはよ、愛が深ぇと未練じゃなくなるんだな)」
「ノクス、詩的すぎない?」
「にゃん(うるせぇ、今感動してんだよ)」
○○○○○
幽霊は怖くない。怖がらせる事が目的じゃない。
伝えたい想いが、ただ、そこにある。
次回予告!
結先輩が、呪いの恋愛相談を受けたら
……幽霊より面倒な“生き霊系女子”がやってくる。
第4話『結先輩と生き霊女子〜恋は呪いより厄介だ〜』
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