第29話『七不思議⑥:次はお前だ(前編)』
夜の大学。
俺達オカルト研究同好会の三人――俺、結先輩、愛菜――は、七不思議の六つ目に挑む為、旧コンピューター室へと足を進めていた。
ノクスは、いつものように愛菜のリュックに潜んでいる。
「この部屋、ずっと使われてないって聞いたけど……どうして怪談の舞台になったのかしら」
結先輩が、どこか不安そうに呟いた。
「まあ……七不思議って、変なとこに集中するもんですし」
俺は苦笑しながら、スマホで心霊マップを確認する。
マップ上では、例の✕印が、この部屋の真ん中を示していた。
これで六つ目。奇妙な話が、妙に整った配置で構内に散らばっている。偶然とは思えない。
「しゅーくん、いまのマップ……また✕ついてるよね? こういうのって、全部揃ったら何か起きるとか……そういうやつじゃない?」
愛菜が小声で言う。
「フラグを立てない。お願いだから」
俺はマップを閉じた。
「にゃう(感じる……集まりつつあるな)」
ノクスの声が、リュックの口から漏れる。
「今なんて言ったの? “集まってる”って……なにが?」
「にゃう(言葉通りだ。“点”が“線”を成そうとしている)」
「怖いんだけど!? なんでそんな詩的な言い回しなの!?」
愛菜の声が少し上ずる中、俺はゆっくりと扉に手をかけた。
冷たい金属が、肌にひやりとまとわりつく。
「行くぞ」
ぎぃ……と鈍い音を立てて扉が開いた。
中は真っ暗だった。埃と、焦げたような匂いが混じる空気。
部屋の中には、古びたパソコンが何台も並んでいる。
まるで時が止まったような、そんな空間だった。
「うぅ……空気が重い……」
愛菜が俺の背中にぴったりくっついてくる。
「怖いなら外で――」
「やだよ! 置いてかないで!」
「にゃう(入ったからには、もう手遅れだ)」
ノクスの声に反応するように、扉がパタンと閉じた。
「わああ!? また閉じたーっ!?」
「開かない……」
結先輩がドアノブを回すが、反応はない。
「にゃう(始まるぞ。“選別”が)」
「何が始まるの、ノクス……」
「にゃう(この場の“支配者”が、誰を“次”に選ぶか)」
その時、部屋の奥で、古いモニターのひとつがピッと光った。
その画面には、白い文字が一つだけ浮かび上がる。
『――次はお前だ』
「……タイトル回収、早くないか?」
俺の呟きと同時に、部屋中のモニターが一斉に点灯した。
次々と映し出されるのは、意味不明な記号、数字、図形――脳が拒否反応を起こすレベルの情報量だった。
「なんか、呪いのコードみたい……」
「にゃう(情報の海だ。だが“答え”は必ずある)」
「答えって……何に対する!?」
そして最後に、ひときわ大きな画面が点灯する。
そこに現れたのは、再び、白いメッセージ。
『最後の一人が、答えにたどり着け』
静電気が走るような気配とともに、古びたパソコンのひとつがカチッと起動音を立てた。
七不思議、六つ目。“次”に選ばれるのは誰なのか。
ここから出るには、なにかを解かなくてはならない。
それが“何か”すら、まだ見えていないのに
次回予告
第30話『七不思議⑥:次はお前だ(後編)』
モニターに浮かぶ謎のメッセージ。
迫る怪異と、試される“選択”。
名前を呼ばれたその瞬間、逃げ場はどこにもない――。
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