第28話『七不思議⑤:体育館に鳴り響く笛の音(後編)』
ピーーーッ
けたたましい笛の音が、体育館に響き渡った。
その瞬間、体育館の照明がバンッと点灯し、誰もいなかったはずのコート上に――人影が次々と浮かび上がった。
「な、なにあれ……!」
愛菜が俺の腕にしがみつく。
制服、体操着、部活のジャージ。
様々な年代の“幽霊達”が、コートの上に整列している。
――全員、無表情。
どこか人形のように無機質な動きで、ストレッチを始めていた。
「にゃう(部員達だ。すべて、練習中に選ばれ、帰れなくなった者達……)」
「選ばれたって、選手じゃん……エントリーいらねぇのかよ……」
体育館の隅、スピーカーの辺りから、がしゃり、と何かが落ちる音がした。
見ると、真っ白なビブスが入った箱がひとりでに開き、その中からビブスがふわりと浮かび上がる。
「しゅ、しゅーくん!なんか……ボクの方来てるんだけど……!」
浮かぶビブスが、愛菜にぴたりと張り付いた。
「きゃああああああ!?何でボクだけ!?どうしてボクだけええええ!!?」
「にゃう(選ばれたな)」
「ボクまだ準備運動してないんだけどぉ!?」
「俺、マネージャーって事で。体力的に無理だから」
「マネージャーって逃げ道じゃないからねぇぇぇ!!」
その時、コーチが笛を吹いた。
ピー!
同時に、整列していた“部員”達が、一斉にランニングを始める。
足音だけが、がらんとした体育館に反響した。
まるで、かつての部活動の記憶が繰り返されているかのように。
「にゃう(従うしかない。拒否すれば、“ペナルティ”だ)」
コーチが、ピクリとこちらを向いた。
いや、“顔”はない。ただ、あの真っ黒な穴が、こちらを向いた気がした。
次の瞬間――
「ピーーーー!」
高く、怒気を帯びた笛の音。
それに合わせて、コートの隅から黒い影のような何かがズズ……ッと這い出してきた。
「な、なにあれ!? 影!? ボクの方来てるよ!?」
「にゃう(ペナルティゾーンだ。命を削ってくる)」
「体育館で命削るとか、ブラック過ぎんだろこの部活!?」
愛菜が必死にランニングの列に合流する。
“部員達”の中に混じって走り出す姿は、涙目ながらも健気だった。
「うう……絶対この後、替え玉ラーメン奢ってもらうからね……!」
影は、列から外れた“部員”を追いかけ、飲み込むようにして消していく。
「うわ、消された!? 除籍!? 怖すぎるだろこの体育授業!」
俺はそっと体育館の壁際を移動し、出口を確認する。
だが――どの扉も、何かにロックされていた。
「にゃう(出口はひとつ。“練習”を終えた者だけに開かれる)」
「それ、何をもって“終わり”と判断するんだよ……」
その時、体育館中央。
コーチが両手を叩き、何かを指し示した。
そこには――一枚のバスケットボール。
そして、ポツンと立っていた“ゴール”があった。
部員達がその場に移動し、次々にシュートを放つ。
だが、どのボールもリングに届く事はなく、地面に転がる度、コーチの穴がピィッと鳴る。
「……まさか、ノルマ達成系?」
「にゃう(選ばれた者が、一本でもシュートを決めれば“練習”は終了する)」
「選ばれた者って……」
「え、ボク!? ねぇ、やっぱりボクなの!?」
愛菜が絶望の目でボールを拾う。
「バスケ……やった事ないんだけどぉおお!!」
「大丈夫だ。大事なのはフォームじゃない、根性だ!」
「そんな精神論、今いらないからああああ!!」
ふらふらとゴールに向かう愛菜。
“部員”達が静かに見守る中、彼女は震える手でボールを構えた。
「……い、いきます……!」
ぐっと目をつぶって、腕を振る。
ボフッ
ボールは、コツンとリングに当たり、跳ね返ってゴールに入った。
「……え?えええええええええ!?入ったああああああ!!?」
「おお……決まった!?これ、卒業出来る!?」
その瞬間、笛の音が静かに止まり――
“部員”達が、次々と姿を消していく。
最後に、コーチが笛を口元に当て、こちらを向いた。
「にゃう(……“練習”は終わった。だが、また来るぞ)」
ピィ――。
最後の音が響いたとき、体育館の扉が、ギィ……と音を立てて開いた。
俺達は、夜の大学構内へと、這々の体で転がり出た。
「……あのさ」
「な、なに……?」
「……やっぱ、ラーメン行こう。替え玉、奢る」
「……うん」
「にゃう(おい、おれの煮卵は……?)」
次回予告
第29話『七不思議⑥:次はお前だ(前編)』
閉ざされたコンピューター室。
扉を開けるには、室内に隠された謎を解かねばならない。
七不思議の秘密を握る“封印”のヒントとは――?
怪異が迫る中、緊迫の謎解きが始まる。
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