第20話『図書室の昼下がり』
新章突入です!
第二章:七不思議編!
久しぶりに、何も起きない午後だった。
大学の図書室。
その隅にある閲覧席で、俺達は珍しく静かな時間を過ごしていた。
「ふあ〜……平和って、最高だね〜」
愛菜が机に突っ伏し、その背中にノクスがどっかりと乗っている。
「にゃう(静かすぎて退屈すぎて脳がとける)」
「ノクスが退屈だって!それは贅沢ってやつだよー!」
俺は苦笑しつつ、ポンジュースのストローをくわえた。
隣では結先輩が、静かに本を読みながら、時折うとうととしている。
「事件が終わってから、まるで嵐の後の凪ね……」
「夜落ちも、もう観測されてないんでしょ?」
愛菜がノクスの耳をもふりながら言った。
「ええ。綾さんが言ってたわ。『完全消失』って」
「……ま、うちの猫が秘密裏にぶった斬ったおかげだろうけどな」
「にゃぅ(おい、しゅー、それ口に出すな。ばれるだろ)」
「え? しゅーくん、何か言った?」
「いや、なんでも」
ふと数日前に起きた事も思い出す愛菜。
「屍村での事も、何か夢見たような感じだよね」
「あんな濃厚過ぎる夢、二度と見たくねぇ」
「ふふ、確かにそうね」
「にゃう……(平和が一番……)」
その時だった。
図書室のカウンターに、ドサッと重そうな封筒が落ちた音が響いた。
司書のおばさんが訝しげに首をかしげながら、封筒を持ち上げる。
「雨城修さん? これ、あなた宛てみたいよ」
「……俺?」
封筒は黄ばんでいて、古い羊皮紙のような質感。
差出人不明。
けれど、確かに俺の名前が書かれていた。
俺が躊躇していると、愛菜が当然のように開封していた。
「ちょ、開けるなって」
「だって、こういうのって絶対ワクワクするやつだよ?」
中には、二枚の紙が入っていた。
一枚目は、奇妙な文体の手紙。
二枚目は、手描きの地図のようなもの。
『七つ目が、視えてしまった者へ――』
「……七つ目?って事は……一から六もあるの?」
「つまり、そういう事よね……?」
「うわ、また面倒そうな話が始まったな」
「にゃう(やめとけって。これは明らかに“フラグ”ってヤツだ)」
俺達は手紙の裏に書かれていたメッセージを見て、思わず息を飲む。
――“封印されし、失われた七つの記録”
そして地図には、大学構内の見覚えのない場所に「×」印が7つ付いていた。
ただのイタズラかも知れない。でも――直感が、違うと告げている。
「雨城君、これってまさか……“七不思議”ってやつじゃない?」
結先輩がぽつりと呟く。
「そういや、昔からあったな。噂だけは」
「ボクの地元の学校にもあったよー! 『鏡の中の教室』とか、『深夜の音楽室』とか……!」
「……にゃう(おい、本格的に始まる気か?)」
「ん?封筒の中にもう一枚ある?」
俺はそっと、封筒の底に残っていたもう一枚の紙を取り出した。
そこには、こう書かれていた。
――“気をつけろ”
「……気をつけろ??」
再び顔を見合わせる俺達。
ノクスが尻尾をぴくりと動かした。
「にゃう(あーあ、せっかく平和だったのにな)」
こうして、平和な午後は終わった。
俺達は気付かないふりをしながらも、もう次の一歩を踏み出していたのかもしれない。
次回予告
第21話『七不思議①:踊る階段』
誰もいないはずの階段に、聞こえる足音。
上っても、下っても、元の場所に戻ってくる――
それが最初の“噂”だった。
次回!長編!七不思議編スタート!!
お楽しみに!
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