第18話『夜明け』
翌週、大学の一室で、俺たちは再び綾と顔を合わせていた。
彼女は机の上に何枚かの調査報告書を並べてから、ゆっくりと口を開く。
「……“夜落ち”に関する異常反応、すべて消失しました」
俺はそれを聞いて、思わず息を吐いた。
「本当に……終わったんだな」
愛菜がほっとしたようにノクスを抱きしめる。
「ボク達、無事で良かった……」
結先輩も静かに頷く。
「この数週間、不安定だった霊的反応も落ち着いてきたわ。夢見も、視界の歪みも……今はもう、何もない」
綾はひとつ息をついて言った。
「正式な報告書には、“自然消滅”と記載されます。……ですが、本当の所は、私にもよく分かりません」
「そうか……」
俺はノクスを一瞥する。
彼は何も言わない。ただ静かに、窓の外を見つめていた。
「……まあ、何がどうあれ、消えてくれたならそれでいい」
不穏な“夜”はもう、この空の下にはいない。
ようやく、日常が戻ってきたのだ。
部室に戻った俺達は、少し早めの夏休みの予定を立て始めた。
お化け屋敷、怪談巡り、古書探し……普通の、けれどどこか楽しみな日々。
ノクスが机の下で小さく伸びをした。
「にゃう(まったく……ようやく静かになるかと思えば、また別の騒ぎの予感がするんだが)」
俺は吹き出しそうになったのをこらえながら言った。
「たまには休ませてくれよ……次の事件まではな」
そして、俺たちは静かな日常へ戻っていった。
“夜落ち”という異常は、影も残さず、確かに消え去った。
――ただし、それが本当に終わりだったかどうかは、誰にも分からない。
けれど今は、それでいい。
次回予告
第19話『もう一つの旧部室、そして封印の先へ』
その扉は、存在しないはずの空間にあった。
誰かの記憶から消され、誰にも語られなくなった場所。
けれど俺達は、踏み込む。
忘れられた真実を、この手で暴く為に。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
「面白い!」と少しでも思っていただけたら
良ければ、評価(★)やブックマークで応援していただけると嬉しいです。
続きの執筆の原動力になります!