第17話『夜落ちの影(番外編)〜ノクスの一閃〜』
深い夜の帳が町を包み込む。
誰もいないはずの路地裏で、冷たい風が不気味にざわめいた。
空気が重く淀み、視界の端が歪み始める。
それはまるで、闇が生き物のように蠢いているかのようだった。
“夜落ち”――それはこの世界の理を破壊する異常現象。
夜そのものが、塊となって空から落ちてくる。
塊は見えない糸で引き裂かれるかのように、ゆっくりと確実に広がり、触れたものの存在を浸食していく。
触れた者は輪郭を失い、やがて存在の記憶すらも消えてしまう。
町の片隅にある廃屋。
そこに差し込む月明かりは、どこかぼんやりと揺らめいていた。
中に踏み込んだ足音はもう戻らない。
“夜落ち”に捕まった者は、そこから姿を消す。
誰かの叫び声が、深い闇の中でかすかに響いた。
「助けて……誰か……」
だがその声も、徐々に掻き消されていく。
重苦しい闇は息を潜め、まるで次の獲物を狙うようにじっと待っている。
“夜落ち”はただの闇ではない。
それは忘れられた魂の怨念と、存在の断片が集まった化け物。
怨嗟が渦巻き、時間と空間の境界を崩し、あらゆる生き物を呑み込もうとする。
突然、空気が張り詰めた。
黒い塊が地面に向かって落ち始める。
闇が拡がり、世界の色が吸い取られていく。
呼吸は重くなり、心臓の鼓動が耳をつんざく。
すべてが消える――そんな絶望の瞬間。
しかし、その時だった。
鋭い影が夜の闇を切り裂く。
――「にゃう!」
ノクスが闇の中から飛び出した。
その瞳は漆黒の闇を貫き、爪は光の刃となって闇を斬り裂く。
一閃。
“夜落ち”の闇は切り裂かれ、怨念の叫びは断ち切られた。
闇は粉々に砕け散り、世界は静けさを取り戻した。
ノクスは静かに地面に降り立ち、深く息をついた。
――これで終わりだ。
夜は再び、静かに、優しく降りてきた。
次回予告
第18話『夜明け』
綾から「夜落ち」について衝撃の結果を聞く俺達。
普段の生活の中、静かに新たな物語が動き出す――。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
「面白い!」と少しでも思っていただけたら
良ければ、評価(★)やブックマークで応援していただけると嬉しいです。
続きの執筆の原動力になります!