第14話『神代綾の秘密』
翌日。
俺達は大学図書館の一角、人気のない閲覧室に集まっていた。
向かいに座る神代 綾は、昨日と同じ無表情のまま、静かに頭を下げる。
「昨日は……突然、失礼しました」
彼女が差し出したのは、一冊の古びた手帳だった。くすんだ表紙に、手書きの文字が薄れて残っている。
《記録番号:T-13/観測対象“夜落ち(よおち)”》
「……なんですか、これ?」
俺がそう尋ねると、綾は手帳を開き、淡々と口を開いた。
「これは、私が所属している“霊界観測機関”が数十年にわたって追っている異常現象の記録です。昨夜、皆さんが見たあの光……あれは、“夜落ち”の前兆です」
「“夜落ち”? 夜が……落ちるの?」
愛菜がノクスを抱いたまま、小首をかしげる。
「文字通り、空から“夜”が落ちてくるとされる現象です。一時的に、空間全体が闇に包まれ、その中で“存在の記録”が失われる」
「存在の記録……?」
「消えるんです。痕跡ごと、まるごと」
その場の空気が、一気に冷えた。
結先輩が、静かに問いかける。
「……それが、最近の霊障や事故に関係していると?」
「はい。“夜落ち”の発生域では霊障が活性化し、記憶の混乱、視界の歪み、現実の再構成までが観測されています。私はその兆候を察知して、この大学に来ました」
俺達は、無言で顔を見合わせた。
――やっぱり、ただ事じゃない。
「でも……それ、放っておいたら、私達も……消えちゃうの?」
愛菜の声が、震える。
「可能性はあります。でも、対処法が存在します」
そう言って綾が取り出したのは、一枚の紙片だった。
見慣れた図柄が目に飛び込んでくる。
「これって……うちの部の古いエンブレム?」
「正確には、“旧オカルト会”のものです。数十年前、この大学にあった先代組織。あなた達は、その後継団体」
「つまり……俺達が、関係してるって事?」
「関係どころか、最も深く接続されています。“夜落ち”は、この地に何かを残している。貴方達の部室の、更に奥に」
ノクスが、膝の上で低く唸る。
「にゃう(しゅー、これはガチでヤバいやつだぞ……)」
――まあ、ノクスの声が分かるのは、いつものように愛菜だけ。
俺は深呼吸してから、椅子に背筋を伸ばした。
「……幽霊だろうが異常現象だろうが、上等だ。慣れてる。相手が誰でも、やる事は変わらない」
綾がわずかに目を見開く。
結先輩が、そんな俺を見て、小さく頷いた。
愛菜も、ノクスの耳をくりくりしながら笑っている。
そう。
俺達は逃げない。
どんな異常でも、目を逸らさず、正面からぶつかる。
この手で、真実を掴む為に。
次回予告
第15話『旧会室の封印』
“夜落ち”の真実に迫る鍵は、大学の奥にある“旧オカルト会室”に眠っていた。
その封印が解かれる時、忘れ去られた記憶が呼び起こされる――。
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