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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜  作者: 兎深みどり
第六章:妖魔界激震編
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第138話『血の誓環(リング)』

 妖市の奥、血の匂いが濃く淀む一角。


 灯籠の赤が風に揺れ、石畳の目地に黒い影を溜めていく。

 ざらりとした囁きが耳の裏にまとわりつき、喧噪は遠のいていた。


「……ここから先が“奥”だな」


 修が低く言う。


「ええ。足音を立てないで」


 結が眼鏡の位置を整え、顎で進行方向を示した。


「にゃっ(血の匂いが濃いな)」


 ノクスの尾がふくらみ、赤い瞳が細く光る。



 骨で組まれた鳥居をくぐると、小さな円形の広場に出た。

 中央の石壇には環を描く古い文様が幾重にも刻まれ、縁は赤黒く濡れている。

 銀の杯が据えられ、乾きかけた赤が内側に薄膜となって貼りついていた。


「……“環”」


 修が息を詰めた時、広場の縁に黒いマントの影が立ち並ぶ。

 蒼白の顔、深紅の瞳。吸血鬼ヴァンピール達。


「東の子らよ。ここは血の環の間。話は短く済ませよう」


 銀髪の男が一歩進み出る。


「……アシュベル」


 浜野先生が名を呼ぶ。


「我らは“王の戴冠”を恐れる。ゆえに――儀を中止せよ」


 アシュベルの指が杯の縁をなぞると、文様が赤く脈打った。


「条件はそれだけですか」


 結の声は静かだが、背筋には冷たいものが走っている。


「それだけで、すべてだ。奴が目覚めれば、人も妖も我らも、等しく奪われる側となる」


 修が一歩前に出た。


「……情報は共有してもらえるんですよね」


「当然だ。対価として、互いの血を差し出し、環に誓え」


 杯が持ち上げられる。空気がぴんと張り詰めた。


「血の契約……」


 結が唇を噛む。


「にゃあ(物騒だな)」


 ノクスが短く鳴く。



 三人は順に血を杯へ落とした。

 石壇の環が淡く光り、床面の文様へ広がる。

 見えない鎖が人と吸血鬼を同じ円に括りつけた。


「……これで一時の契約は果たされた」


 アシュベルが言った瞬間。



「ふん……西洋の眷属どもとだけ契約とは、片腹痛いのう」


 骨の門の上から、重い声が降ってきた。

 九つの尾を揺らす巨大な影。黄金の瞳、燃えるような毛並み。

 その存在だけで灯籠の火が萎んでいく。


「妖魔界の激震は東西の妖、皆に及ぶもの……

 お主らだけで抜け駆けは許さんぞ」


 尾が地を叩き、石畳がひび割れた。

 結が息を呑み、修は無意識に灰羽を握りしめる。


「……九尾」


 アシュベルの紅い瞳が細まり、牙が覗いた。


 赤い灯籠が一斉に消え、広場を闇が包む。

 次回予告


 第139話『九尾の玄昌』


 血の環に現れた九尾の獣――玄昌。

 その尾が試すのは、修の“舌の力”。

 命のやり取りを超えた言葉の戦いが始まる。


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