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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜  作者: 兎深みどり
第六章:妖魔界激震編
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第136話『人柱、奪取』

 その夜、街の灯りはどこか揺らいで見えた。

 ここは浜野のアパート。

 アパートの窓越しに外を見つめていた愛菜は、胸の奥に走るざわめきを押さえられずにいた。


「……来る。すぐそこまで来てる……!」


 背筋に冷たいものが這い上がる。

 いつもなら「見えないけど分かる」という程度の感覚が、今夜に限っては違った。

 圧力のように、頭の内側を叩き続ける。


「しゅーくん!結先輩!先生!」


 愛菜が叫んだと同時に、部屋の空気が裂けた。

 闇の裂け目から滲み出るように現れたのは、人型の影。

 銀の仮面。灰色の羽根の外套。

 静かに佇む。

 だが凄まじい威圧感を発する。


「──こいつ、ヤバい……」


 修が息を呑んだ。

 その存在感は、今まで遭遇してきた妖魔とは格が違う。

 思わず後ろに下がった結を庇いながら、修は懐中電灯を強く握り締める。


「にゃあああああっ!!(この気配……“王”直属の騎士にゃ!!)」


 ノクスが毛を逆立て、耳を伏せて唸った。

 瞳孔は針のように細まり、今にも飛びかかりそうな気配。


「雨城君!」

「分かってます、結先輩!けど……!」


 言葉より速く、眷属の腕が振り下ろされた。

 鈍い衝撃音。

 木製のドアが粉々に砕け散る。

 愛菜が必死に後退ろうとするが、その首筋を掴む冷たい手が彼女を捕らえた。


「っ──!」


 悲鳴を上げる暇すらなかった。

 騎士は一瞬で、愛菜の姿ごと闇に溶けていた。


「……っ! 愛菜!!」


 修が飛び出すが、掴めたのは虚空だけだった。

 その場には、灰のような燐粉と──ひとひらの灰色の羽根だけが、床に落ちていた。


「にゃあああああああっ!!(返せぇぇぇぇ!!)」


 ノクスが絶叫し、全身から闇が吹き荒れる。

 翼の影が膨張し、部屋の天井を突き破る勢いで広がる。

 床板が軋み、窓ガラスが割れんばかりに震えた。


「ノクス、駄目だ!! 今暴れたら──」


「にゃあああああ!(止めるな!仲間を、愛菜を奪われたんだぞ!!)」


 結が思わず耳を塞いだ。

 空気が震え、心臓まで鷲掴みにされるような怒気。

 ノクスの“制御”が外れかけている。


 修は、喉までせり上がる恐怖を押し殺して叫んだ。


「ノクス!今ここで暴れたら、愛菜がどこに連れて行かれたか分からなくなる!俺達が……追えなくなる!」


 その言葉に、ノクスの瞳が一瞬だけ揺らいだ。

 牙を剥き、爪を突き立てたまま、悔しげに床を引っかく。


「怒りはとっておけ、攫った張本人にぶつける為に」


「……っ、にゃう……!(ちくしょう……!)」


 翼の闇が収束し、部屋に重苦しい沈黙が戻る。


 その時、横で先生が咳払いした。


「こういう時の為にな……」


 彼はカバンから、一冊のファイルを取り出した。


「“対非常時マニュアル・その七”──『仲間が攫われた場合の初動行動』!」


 真剣な顔で読み上げる先生。


「一、慌てるな。まず深呼吸。

 二、証拠を確保せよ。

 三、相手の痕跡を追う準備を整えよ」


「……先生、それ、本当に役に立つんですか」


 修が思わずツッコむ。


「役に立つとも。今の俺達に必要なのは落ち着きと手がかりだ」


 呆気にとられつつも、修は床に残った羽根を拾い上げた。

 黒灰色に燻んだその羽根は、微かに熱を帯びており、触れた指先に鈍い痛みを走らせる。


「……これが、奴らの痕跡」


「にゃう……(間違いない。王の眷属の羽根だにゃ)」


 修は羽根を強く握りしめ、決意を新たにした。


「向こうが愛菜を奪ったなら……俺達は、必ず取り返す」


 窓の外では、風が嵐の前触れのように唸っていた。

 攫いの夜は、まだ始まったばかりだ。


 次回予告


 第137話『灰色の行方』


 残された“灰の羽根”が示す先は、妖魔の王の影が差す場所。

 愛菜を奪還するため、修たちは危険な追跡に踏み出す。

 だが、そこには想像以上の“代償”が待ち受けていた。


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