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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜  作者: 兎深みどり
第六章:妖魔界激震編
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第134話『黒い誘い』

 夕暮れの部室に、不気味な静けさが流れていた。

 机の上には、玄昌から渡された古い写しが広げられ、結先輩が真剣な表情で読み込んでいる。


「“王の儀”……吸血鬼達が代々受け継いできた儀式の記録、らしいわ。これが完成すれば、彼らは一つの支配権を得る……と」


「支配権……ですか」


 修は思わずごくりと唾をのんだ。

 写しに記されているのは、黒い冠、血で染めた祭壇、そして“戴冠”という言葉。


「ただの迷信って片付けたいけど……玄昌さんが“気をつけろ”って言ってたの。その時、彼は確かに震えていた」


「……嫌な予感しかしないっすね」


 その時、ソファに寝そべっていたノクスが、ぴくりと耳を立てた。

 毛並みが逆立ち、尾がぶわりと膨らむ。


「にゃ、にゃあ……(こ、この儀式は……洒落にならんぞ……!)」


「え、ノクスがこんなに動揺するなんて……珍しいね」


 愛菜が目を丸くする。

 ノクスはソファから飛び降りると、まるで何かから距離を取るように後ずさった。


「にゃ、にゃああ……(近づけるな、それは“王”の気配だ!)」


 修は視線を写しに戻す。

 そこに刻まれていた名が、目を射抜いた。


「“――ルナ=ヴァルガ”。これが……妖魔の王の名、ですか」


「ルナ=ヴァルガ……」


 結先輩がその名を口にした瞬間、部室の空気がひやりと冷え込む。

 まるで誰かに背後を覗かれているような感覚が走った。


 その時、机の端に置かれていた空白の書がかすかに震えた。

 ぱらりと開かれた断片のページに、にじむように同じ名が浮かび上がる。


「……合ってる。まだ全ては示せないけど……その名は、確かに記されてる」


 ひよりの声は、遠い水面から響くように揺れていた。


「……“彼女は奪う、すべてを”。記録にはそう残されてるわ」


 低く読み上げる結先輩の声が、妙に重く響いた。

 その一言は、呪いにも似て部室を満たしていく。



「にゃ……にゃにゃ!?」


 次の瞬間、愛菜が手にしていた布をノクスの背にばさりとかけた。

 それは真紅の“王のマント”を模した布だった。


「じゃーん! ほらノクス、王様ごっこだよ!」


「にゃにゃにゃ!(重いし長い!裾引きずってるだろ!)」


「似合ってるよ〜、陛下!」


 結先輩まで笑いながら拍手する。

 だがノクスは必死にマントを振り落とそうとして、机の上の写しに突っ込んだ。


「ちょっ……! “王の儀”の写しが……!」


 修は慌てて書類を押さえつつ、ため息をもらす。


「なんでこんな時にコントやってるんですか……」


「にゃあん!(おれだって好きでやってねぇ!)」



 笑い声が響く中、ひときわ強い風が窓を叩いた。

 その音は、まるで遠い鐘の音のように重なって聞こえる。


 ――黒き戴冠式は、すでに始まりを告げていた。

次回予告


 第135話『さらいの前夜』


 愛菜の周囲に生じる“空白の時間”。

 護符が焼け焦げ、迫る脅威に先生が全員を保護モードへと誘導する。

 しかし修の“真語断ち”は、初めて弾かれてしまう――。

 不吉な夜の帳が、静かに降り始めていた。


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