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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜  作者: 兎深みどり
第六章:妖魔界激震編
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第131話『開幕/夜はうごめく』

新章開幕!!

第六章:妖魔界激震編!!

 ーーきさらぎ駅に行く前の話。


「にゃー(集会に行ってたんだよ、妖怪達の、な。そこで、面白い事聞いてきたぞ!)」


 愛菜が肩をすくめて笑う。


「ノクスが“妖怪の集会で面白い話を聞いた”って」


 和んだ空気に結も微笑み、修と浜野は並んで長い夏休みの夜空を見上げていた。


 その夜から――空気が変わった。


◆ 


 ーーそして現在、きさらぎ駅から帰還したオカ研の面々はある事件に巻き込まれようとしていた……。


 夜の暑さは少しやわらいだが、湿気がまだ地面に残っている。

 街灯が作る光の輪の外は暗く、どこか遠くで犬が一度だけ吠えた。

 その声を合図にしたように、全国のあちこちから小さな騒ぎの報せが届き始める。


 

 山奥では、河童が古狸の縄張りを荒らして橋を塞ぎ、通行人が足止めされた。

 港町では、海坊主が漁港の入口に現れ、漁船が出られなくなった。

 都会の路地裏では、吸血鬼が迷い込んだ低級妖魔を追い立てているという。


 

「……物騒になってきたな」


 運転席の浜野がバックミラー越しに呟く。


「西洋勢と日本勢、両方が動いてる感じですね」


 後部座席の結が地図を広げる。

 赤く印をつけた場所が、この数日でずいぶん増えていた。


「にゃー(狙ってるのは同じ“獲物”だぜ)」


 ノクスは窓際に座って、流れる街の灯りをじっと見ている。


「同じ“獲物”を狙ってるって」


 愛菜が通訳すると、修と結が顔を見合わせた。


「獲物って何の事だ?」


 修が問うが、ノクスは小さく尻尾を振るだけだった。


 


 その夜、先生の車は深夜パトロールのため高速道路へ入った。

 街の明かりが背後に遠ざかり、前方は静かな闇と白い道路標識だけが続く。


「休憩を兼ねて、あのサービスエリアに寄ろう」


 浜野がそう言ってハンドルを切る。


 


 駐車場に車を停めると、そこは妙に人気がなかった。

 売店の明かりがぽつんと一つ灯り、虫がその光に集まっている。

 舗装の上には、昼間の熱がまだ残っていた。


 


「腹ごしらえでもするか」


 浜野が先に歩き出す。


「にゃー(異議なし。ご当地ソフトの比較だ)」


 ノクスが勢いよく降りて、真剣な表情でショーケースを覗き込む。


「ノクス、比較だって。……バニラ、抹茶、塩きなこまであるよ」


 愛菜が笑い、結も興味深そうに覗き込んだ。


 


 そんな中、遠くで低い音が響いた。

 雷でも風でもない。大きな金属が軋むような、不気味な響きだった。


「……今の、何」


 愛菜が小さく声を漏らす。


「にゃー(夜が動いた)」


 ノクスが短く鳴き、愛菜がすぐに訳す。


「夜が“動いた”って」


 修は無意識に周囲へ目を配った。


 


 店を出て車に戻ると、愛菜の手首に淡い光が浮かんでいた。

 それは水の渦と鎖を組み合わせたような模様で、脈を打つようにゆっくり形を変えている。


「これ……」


 愛菜は自分の手首を見つめる。


「にゃー(人柱紋だな)」


 ノクスの声色が低くなる。

 愛菜がごくりと唾を飲み、皆へ向き直った。


「……ノクスが“人柱紋”だって」


 


「痛みは」


 修が問う。


「ないよ。でも、冷たい水に触ってるみたい」


 愛菜は少し不安そうに笑う。


「にゃー(この紋は、門を開けたり閉じたりする“鍵”だ。昔は命と引き換えだった)」


 ノクスの鳴き声を、愛菜が噛みしめるように訳す。


「門を開けたり閉じたりする“鍵”。昔は……命と引き換えだったって」


 結の表情が強ばり、浜野はハンドルに視線を落とした。


 


「……つまり、危険なものなんですね」


 結が息を整える。


「にゃー(今は違う。違わせる)」


 ノクスは尾を一度だけ打つ。愛菜が小さく頷いた。


「今は違うようにするって」


 


 車が再び走り出す。

 窓の外、遠くの交差点に赤い鳥居が見え、その少し横に西洋風の尖塔の影が重なるように揺れた。

 まるで二つの“夜”が、同じ方向を睨んでいるみたいだった。


 


「にゃー(どっちにしても、やる事は同じだ)」


 ノクスが愛菜の肩に寄り添う。愛菜は短く訳す。


「どっちにしても、やる事は同じ……だって」


「具体的には」


 修が視線を前に置いたまま問う。


「にゃー(お前の手首を冷たくしすぎない。それと……首輪を首輪のままにしない事)」


 ノクスは愛菜だけを見る。

 愛菜は言葉にせず、手首を胸元に抱いた。


 


 誰も口には出さなかった。

 二つの夜が狙う“獲物”が、仲間かもしれないという事を。


 次回予告


 第132話『招かれざる使者』


 静かなはずの校内に、夜の客が足跡を残す。

 笑顔の裏に隠した牙、その提案は“戴冠”の招待状。


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