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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜  作者: 兎深みどり
第五章:そうだ、きさらぎ駅に行こう!編
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第129話『ただいま』

 朝の光は、驚くほど普通だった。


 駅前のパン屋から甘い匂い。

 バスのブレーキが響く。

 遠くで工事のハンマーが一定のリズムを刻む。


 ベンチに腰を下ろした結は、両手で胸元を押さえた。

 震えはない。

 ただ、心臓の音がゆっくり追いついていくのを待っていた。


 隣で母が、いつもの笑みを浮かべている。

 見える。

 はっきりと。

 輪郭も表情も、光の当たり方も。


「……お母さん」


「結」


 呼び合うだけで、世界の色が一段濃くなる。


「しゅーくん、顔色」


「問題ない。ちょっと乾いてるだけだ」


「強がりは後で」


 愛菜が水を押し付け、ノクスがリュックの口から顔を出す。


「にゃう(今は休め、倒れるぞ?)」


「しゅーくん倒れるよって言ってるよ」


 浜野先生は自販機の影で肩を回し、小さく苦笑した。


「関節、だいぶ持ったな。リーヴァに褒められる奴だ」


「先生、かっこ良かったです」


「当然だ」


 ひよりは空白の書を抱え、端をそっと撫でる。

 黒い針はない。

 もう安全だ。


「……“残るのは沈黙だけ”が、ここでも効いてる。黄昏の呼び声、弱い」


 結はスカーフの“結び”を見つめ、母に向き直った。


「どうして、私に見えるようになったんだろう」


「あなたが“読む”人になったから。『全員で帰る』を、何度も同じ向きで読んだ。私も、皆さんと同じ列に入れた……だから見えるようになったのかも」


「じゃあ、ずっと一緒に」


「ええ。あなたが見る限り、私はここにいる」


 修が立ち上がり、伸びをした。

 心の棘はまだ残る。

 だが、痛みの形はもう知っている。


「続きは部室でやるぞ」


「了解」



 オカ研の部室は、相変わらず雑然としていた。

 ホワイトボードには“謎の足音録り直し”“夏合宿候補地(安全)”の文字。


 愛菜が机を拭き、ノクスが丸くなり、ひよりが書を本棚の一番上に寝かせる。

浜野先生はソファーに沈み、アイマスクして、寝息を立てている。


「先生、の◯太かよ」


「雨城君」


「先輩?」


「ありがとう。……そして、お疲れさま」


「礼は、全員に、ね」


 母が部屋の隅で微笑む。

 結の視線の先、いつでも見える位置に。


 彼女は、娘の肩越しに黒板を眺め、静かに頷いた。


「にゃーご(次の課題、どうするにゃ)」


 ノクスが欠伸を噛み殺す。


「まずは、寝ようよ、もう疲れちゃった……パ◯ラッシュが二足歩行でダッシュしてくるよ」


「にゃう(異議なし)」


 笑いが小さく重なった。


 窓の外で風鈴が鳴り、どこかでチャイムが遅れて合図する。

 日常の音は、いつも通りだ。

 けれど、確かに少しだけ増えた。

 見える母の気配という新しい音が。


 結は胸に手を当て、静かに言う。


「ただいま」


 母が微笑んで答える。


「おかえり」


 次回予告


 第130話『夏合宿(安全)』


 恐怖の後は、たまにはゆるい回

結の母が持ってきた“書”のページ。

そこに記録されたものとは……!?


 次回、第五章完!


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