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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜  作者: 兎深みどり
第五章:そうだ、きさらぎ駅に行こう!編
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第127話『扉の先にて』

 扉は再び白く開き、進んだ先は──きさらぎ駅。


 異様に長いホーム。

 柱の影が等間隔に伸び、闇の奥で消えていく。


 空はなく、蛍光灯だけがじわじわと明滅し、時間の感覚を奪っていく。


 改札の向こうでは、切符の鎖に編まれた黒咲結の母が宙に縫い止められていた。


 首を傾けたその姿は、まるで時が止まったかのように動かない。


 修が一歩踏み出した瞬間、線路の鉄が呻き、肉のように脈打った。


 次の瞬間、黒い制服の塊が隆起し、ホームを押し割って立ち上がる。


 帽子、鋏、硬い口。

 駅員が無言で視線を落とし、ゆっくりと巨大化していく。

 天井が押し上げられ、蛍光灯が悲鳴を上げた。


 よく見たら結の母は天井から吊るされていた。


「お母さん!!!」


「通行条件──全員の死──」


「ふざけんな」


「にゃう(自己中ルールなんざ、粉々にしてやるにゃ!)」


 ノクスの喉が低く鳴る。

 背毛が逆立ち、影が滲む。


 修の心眼が真紅の警告を灯す。

 このまま零式を撃てば、自分が先に折れる──核が厚すぎる。

 まずは装甲を削る。


修の低い声が響く。


「先に弱らせる。全員、合わせろ」


「任せろ」





 浜野先生が、いつものだらりとした上着を肩から払う。

 途端に、胸郭の奥で機械が唸った。


「――プロトコル07、発動。

 《METEOR KNUCKLE:起動》」


 その音はただのモーター音ではなく、獣の呼吸のように重く、熱を帯びている。


 皮膚の下を、電流のような光が奔った。

 半サイボーグの関節が音もなくロックされ、背筋が僅かに反り返る。


 筋肉と金属が完全に嚙み合い、ただ立っているだけで床板がきしんだ。


「フルドライブ!アクティベート!!」


 圧縮蒸気が四肢から爆ぜた。

 白い靄が爆発的に広がり、冷えたホームの空気が一瞬で鉄と油の匂いに染まる。


 足元の枕木が、わずかに沈んだ。


「にゃう(俺も行く)」


 ノクスの影が、液体のように床へ拡張する。

 波紋が何重にも広がり、一度、大きく脈動した。


 次の瞬間──背中から黒い翼が炸裂するように伸びた。

 骨が軋む鈍い音が空気を切り裂き、闇色の羽が周囲の光を奪う。


 瞳は血のように濃い赤へと変わり、牙は鋼より鋭く変質した。


 その口から紡がれた声は、全員の鼓膜に届く。


「常夜の王、覚醒の時だにゃう!」


 地鳴りにも似た足音が迫る。

 巨大な駅員の鋏が、蛍光灯の光を反射して閃いた。


 空気が真一文字に裂かれ、その軌跡は切り取り線となって列の最後尾にいる者を“存在ごと”引き剥がそうと迫る。


「真語断ち・壱式《魂打ち》──“全員”は切らせない!」


 修の声が刃の軌道をねじ曲げる。

 耳ではなく、骨に響くその言葉は、まるで空間の縫い目をほどくかのようだ。


 切り取り線は水面に落ちた石のように波紋を広げ、そして消えた。


「しゅーくん、右上!」


 愛菜が短く叫ぶと同時に、彼女の手から放たれた修のばあちゃんお手製の護符が青白く燃え上がる。


 風切り音と共に、護符が弧を描き、駅員のこめかみ付近をかすめた瞬間、青い火花が散った。


「助かる」


 修が短く礼を言う横で、ひよりが空白の書を胸に抱き、指先で見えない糸を編む。


 その瞳は深く澄み、まるで次の一手を全て見通しているかのようだった。


「……空間把握完了。足元──空洞です」


 彼女の言葉と同時に、駅員の足元から切符の雪崩が噴き出した。


 紙片が嵐のように巻き上がり、奴の足首に絡みつく。


 ホーム全体が波打ち、巨体の重心が揺らいだ。


「先生!」


「応!」


 浜野先生が一気に踏み込み、床が破裂したような音を立てる。


 そのまま音速の勢いで拳を振り下ろす。


 金属骨格と生身の筋肉が完全に同期し、生まれた力は人間の限界を軽く超えていた。


「《メテオナックル》!!」


 拳が駅員の胸板を撃ち抜く瞬間、空気が弾ける轟音が響く。


 ホーム全体が大きく揺れ、粉塵が舞い上がる中、巨体が沈み込んだ。


「まだまだ!!第六階梯!闇翼裂刃ダークウィングスライサー!」


 ノクスが翼を大きく振り抜いた。

 その一振りは鞭のようにしなり、空間そのものを裂く。


 黒い光刃が無数の刃となって放たれ、切符の波を一瞬で斬り払い、駅員の肩口に大穴を穿った。


 ──だが。


 穴は“規則”によって、みるみる塞がっていく。

 耳元で、数百人の声が囁き始めた。


 それはホームの影から響く、言葉にならない合唱だった。


「弐式《叫返し》──“帰りたい”……皆の声を俺が代わりに叫ぶ。残すのは沈黙だけだ!」


 修が叫んだ瞬間、ホーム全体の空気が熱を帯びる。

 その熱は“規則の糊”を乾かし、塞がりかけた穴を再び軋ませる。


 やがて、鎖の結び目が一つ、解けた。


 吊るされていた結の母が、かすかに息を継ぐ。


「結、近づかないで。穴が口になる」


「……はい。見ます、合図します」


 巨大駅員が蛍光灯を引き抜き、それを鋏と合わせて巨大な“枠”を作る。


 その枠に入ったものは、ルールによって存在を削ぎ落とされ、痕跡すら残らない。


「やる事は一つだ。枠を壊す!全力で行くぞ!先生!ノクス!」


「任せろ雨城!フルドライブ、更に上げる──出力制限、解除!」


「しゅー!了解だにゃう!魔力、覚醒させる!」


 駅全体が低く唸った。

 蛍光灯の光が脈打つように明滅し、空気が歪む。

 床下の線路が一瞬だけ赤く輝き、振動が足元を突き上げる。


 浜野の拳に電撃のような白光が走った。


 ノクスの翼が刃の嵐へと変じ、羽一枚ごとに殺意が宿る。


 修は深く息を吸い、零式の刃を心の底に沈めた──今は、まだ抜かない。


 次回予告


 第128話『常夜と隕鉄』


 ノクスの極大魔法、浜野の究極のメテオナックル。

枠を砕き、零式を通す──きさらぎ駅、崩壊へ


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