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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜  作者: 兎深みどり
第五章:そうだ、きさらぎ駅に行こう!編
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第126話『開くのは言葉』

 夜明け前の淡い光が塔の脚を照らし、金属がひんやりと息をしている。


 ひよりの持つ白いページは、約束の重みを帯び、手のひらを冷たく湿らせていた。


「行こう!」


「うん」


「にゃう(列を崩すなよー)」


 見えない階段を一段、二段、三段──そして存在しない“四段目”を置く。


「全員で帰る」


 結の一言で空気に段差が生まれる。


 修がそこに重さを加え、ノクスが喉を低く鳴らし、空白の書のページがふっと軽くなった。


 四段目は確かな足場になった。


 塔の根元に白い風が灯り、四角い枠が形を作り、扉が現れる。


 結は胸元の“結び”を白いページに重ね、全員で同じ向きに読む。


「全員で帰る」


 扉が静かに開いた。

 紙とインクの匂い。

 冷たいのに、墓場のような湿り気はない。


 中は真っ白な部屋。

 壁も床も天井も白く、所々に“薄い行”だけが漂っている。


 中央の低い台座には真っ白な本が置かれていた。

 近づくほど、自分の鼓動が本の拍動に重なっていく。


「開くのは、言葉です」


 ひよりが頷く。

 全員で息を揃え、一息に飲み込むように息を吐く。


 ぱち、と留め具が外れ、白紙のページが開く。

 文字はないのに、“読むべき道”が心の奥に浮かび上がる。


 拍が点になり、線になり、薄い風がその先を示した。


「……見える。歩幅を合わせて」


 最初の拍へ一歩。

 沈まない、柔らかな感触。

 拍から拍へ移る度、部屋の空気が少しずつ温かくなる。


 その途中、白紙の奥がふっと揺れ、映像がにじんだ。


 夏の縁側。

 小さな結に、母が麦茶を渡す涼しい指先。


 学芸会の幕間、黒い舞台袖でそっと握られた手。


 雨上がり、傘をなくした帰り道に差し出された透明な傘。


 どれもささやかな、けれど確かな思い出。

 ページは声のない写真のように、温もりだけを返してくる。


 そんな、叶わなかった未来達……。


「……お母さん」


「にゃう(見てろ。全部“帰す”為の道だ!負けるな!!)」


 台座の脇で、薄い紙束がふわりと浮き上がった。

 端は灰で焦げているが、中央は真っ白なまま。


 結が一枚を摘む。

 羽のように軽いのに、「鍵」という意味だけが掌にしっかりと乗る。


 天井の白が少し濁り、黒い栞が一枚、ひらりと落ちてきた。

 見開きの角に刺さり、“全員”を“誰か一人”へと書き換えようとする。


「来た」


「にゃう(触るな。痩せさせろ)」


「真語断ち・裏式《嘘暴き》。“全員”は“一人”じゃない。俺達は在り続ける!!」


 修の言葉で栞の輪郭が薄くなる。

 続けて黒い鋏の影が一度だけ光り、ページの端を切ろうと滑った。


「真語断ち・壱式《魂打ち》。俺達の絆は切れない」


 刃先が鈍り、切込みは途中で止まる。

 ひよりの白いページが黒い影を吸い込む、こちらの“読み”が勝った。


 拍を七つ進むと、突き当たりに小さな窓が現れた。

 薄い膜の向こうで髪が揺れ、眼鏡が光を返す。


「……結……」


「……今度こそ……会えるよね……?……』


「迎えに来てくれてありがとう。今はここまで。次で“鍵”を使って」


「どうやって」


「拍を七つ、あなたの“結”を三度。全員で“全員で帰る”を一度。沈黙を五つ置いて、扉に重ねるの」


 窓の縁に糸のような光が結ばれ、結の形をした印が残る。


「必ず。次で」


「行きます」


 黒い風が背後で一度だけ揺れた。監視が近い。


「戻る。列を崩すな」


 三、二、一──全員で階段を踏み、足早に戻る。


 結が胸元で白い鍵の一枚を抱え、ひよりの書のページに重ねる。

 端が微かに光り、鍵の印が馴染んだ。


「次は向こうで合わせる。きさらぎ駅そのものに入る合図だ」


「にゃう(真正面だ)」


 結はスカーフを握り、息を整える。

 恐さは残るが、“読む覚悟”はそれ以上に揺れなかった

 次回予告


 第127話『扉の先にて』


 扉の向こうは、きさらぎ駅。

巨大化する駅員、囚われの母。列を崩さず、迎えに行く──


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