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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜  作者: 兎深みどり
第五章:そうだ、きさらぎ駅に行こう!編
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第124話『関門言語』

 朝の風が冷たくて気持ちいい。

 ひよりの白いページには、薄く文字が浮かんでいる。


 西/暁/全員/四段目


「これが、次に行く為の合図……」


 そう言っている間に、文字の端に黒い針のようなものがじわじわ生えてきた。


 針は細いけど、固くて鋭い。

 狙っているのは「全員」の二文字だ。


「にゃう(あれ、駅のルールの針だ)」


 愛菜が小声で訳す。


「針が“全員”を“誰か一人”に変えたいんだって」


 針はじわじわと食い込み、文字を細くしようとする。


 修は白い頁の前に立ち、低く息を吸った。


「まずは嘘を消す」


 修の声が静かに落ちる。


「真語断ち・裏式《嘘暴き》。“全員”は“一人”じゃない。みんなで並ぶ形そのものだ」


 言葉が触れた瞬間、針が一本、ぱきんと折れて砂になった。


 風が少しだけ暖かくなる。


 影の奥から、長い帽子の駅員が現れる。

 顔は真っ黒な穴。

 手には古い鋏。

 開けば、言葉を紙みたいに切れそうだ。


「来たな」


「にゃう(鐘のリズムを止めろ)」


 愛菜の訳に合わせ、ひよりが書で先読みする、全員で唇だけで拍を刻む。


 カン、カン、カン──踏切の鐘のリズムを崩していく。


 見えない踏切が一瞬止まり、駅員の鋏の動きが半歩遅れる。


「今度は声を集める」


 修は胸に手を当てた。


「真語断ち・弐式《叫返し》。帰りたかったお前らの“最後の声”、ここに重ねろ」


 白い頁の余白に、うっすら線が増えていく。


 手をつないだ親子の笑い声、名前を呼ぶ恋人の息づかい、切符を分け合う夫婦のぬくもり。


 言葉にならなかった“帰りたい”が、小さな線の束になって「全員」の重さを太くした。


 駅員の鋏が振り下ろされる。

修はすぐに重ねる。


「真語断ち・壱式《魂打ち》。“全員”は一人じゃない。切る刃じゃ届かない」


 鋏の先が鈍り、黒い切込みが途中で止まる。

 残っているのは、最後の一本の針だけ。


「最後は、私が」


 結が一歩出る。

 力は無い。

 けれど、“読む”事なら出来る。


「“全員で帰る”。私はそう読みます。その読みは、あなたの針じゃ壊せません」


 ことん、と音もなく、最後の針が消えた。

 書に書かれた「全員」は、はっきりと濃くなって、もう揺れない。


 駅員は鋏を一度空で閉じ、影の中へ引いていく。靴音はない。


 ただ、黒い粉だけが風に混じって、どこにも落ちずに消えた。


 静かさが戻る。

 ひよりが書をそっと撫でる。


「……針は全部、無くなりました。“西/暁/全員/四段目”のままで通れます」


「にゃう(よし。暁は短い。準備して、一気に行くにゃ)」


 愛菜がうなずく。


「四段目は“まだない段”。作るのは、ボクらの声だよ」


 浜野先生が塔を見上げる。


「この場所は形じゃなく気持ちが大事だ。全員で一緒に行け」


 修は結の方を向き、短く笑った。


「行こう先輩!」


「……はい。今度こそ、お母さんを助けます!」


 白い頁の端に、小さく一行だけ浮かぶ。

 ──見えない階段は、声で作る。


 全員が、その一行を黙って同じ意味で読んだ。


 “全員で帰る!!”

 次回予告


 第125話『母の選択』


 暁の四段目──声で作る段を上がった先で、母が語る“鍵”と、代わりに閉じる扉。


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