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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜  作者: 兎深みどり
第五章:そうだ、きさらぎ駅に行こう!編
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第117話『失われた人影』

 朝靄が広場を包んでいた。


 崩壊寸前のきさらぎ駅から飛び出した六人(うち一匹)は、その場に膝をつき、荒い呼吸を繰り返していた。


 外の空気は冷たく湿っている。


 それでも、あの圧迫感と耳鳴りがないだけで、生きている実感が戻ってくる。


「……全員、生きてるな」


 浜野先生が短く言った。


 愛菜が振り返り、修の顔を覗き込む。


「しゅーくん、顔色悪いよ……」


「ちょっと、使い過ぎただけだ」


 修は肩で息をしながらも立ち上がった。

 零式《虚空》の代償は、体よりも心を削る。

 頭の奥がまだ重く、視界の端が揺れている。


 結は広場の端を見回していた。


「……いない。やっぱり……」


 その声は掠れている。

 彼女の視線の先に、結の母の姿は無かった。


「改札を抜けた時、確かにいたんだ……でも、振り返ったら──」


 ひよりが言葉を飲み込む。


「連れてかれた……のかも」


 愛菜が小さく呟く。


 その時だった。


 ノクスが耳をピクリと動かし、地面の隅を覗き込む。


「にゃう……(これ、落ちてたぞ)」


 彼が指し示したのは、小さな銀色のペンダントだった。

 細いチェーンが切れかけている。


 結はそれを見るなり息を呑んだ。


「……お母さんの……」


 浜野先生がしゃがみ込み、ペンダントを受け取る。


「開けるぞ?」


 慎重に留め具を外すと、中には小さな紙片が折り畳まれて入っていた。

 紙は薄く、触れれば崩れそうだ。

 それでも、確かに何かが書かれている。


「“戻らないで”……?」


 修が読み上げる。

 その筆跡は、結の母のものに間違いなかった。


 結は唇を噛む。


「どういう意味……? お母さん、私を避けてるの……?」


 修は静かに首を振った。


「違う……何かから守ろうとしてる」


 愛菜がペンダントを見つめながら呟く。


「って事は……まだ大丈夫って事だよね?」


 広場の空気が重くなる。

 遠くの山並みから、不気味な風が吹き下ろしてきた。

 その風の中、誰かの声が確かに聞こえた気がした。



 その夜。


 一行は近くの廃村跡の小屋に身を寄せていた。

 かろうじて屋根と壁が残っているだけの小屋だが、火を焚けば夜風は防げる。


 修は焚き火の横で膝を抱え、じっと炎を見つめていた。

 零式の影響はまだ抜けきらず、胸の奥がざらついている。


「……聞こえる?」


 不意に結が小さく呟いた。


「え?」


 愛菜が顔を上げる。


 結は耳を澄ませたまま、闇の方を指差した。


「……お母さんの声が……風に混じって……」


 ひよりがそっと立ち上がり、外に出て耳をすます。


 浜野先生も眉をひそめ、


「ただの風じゃねぇな……」


 と呟いた。


 風の音に紛れて、確かに人の声がする。

 それは遠くから呼びかけるような声──。


「……来ないで……」


 女の声だった。

 悲しみと焦燥が入り混じった、切迫した響き。


「お母さん……!」


 結が思わず駆け出しかける。


 だが修が腕を掴み、引き止めた。


「先輩、罠の可能性がある」


 ノクスが低く唸る。


「にゃうーにゃにゃにゃう……にゃーお(あの声に生気を感じられない……結の母はすでに亡くなってはいるが、良い生気を漂わせているからな……あれは恐らく罠、だが、あの声は向こうから来るもの……どちらか判断つきにくい)」


「……それ、言いづらいよぉ」


 ノクスに小声で話す愛菜。


 焚き火が揺れ、影が壁に踊る。


 結は涙をこらえながらも頷いた。


「……でも、あの声を無視出来ない」


 修は深く息を吐いた。


「分かってる。明日、一緒に確かめに行こう」


 夜の闇は、静かに一行を包み込んでいった。

 その風の中には、まだ微かに声が混じっている──


 まるで、誰かが道案内をしているように。


 次回予告


 第118話『風に誘われて』


 声が導くのは救いか、それとも破滅か。

結と仲間たちは、再び境界の向こうを目指す──。


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