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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜  作者: 兎深みどり
第五章:そうだ、きさらぎ駅に行こう!編
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第116話『零式・虚空』

 轟音がきさらぎ駅を貫いた。

 

 零式《虚空》の真言が放たれた瞬間、黒い鎖は一斉に弾け飛び、駅舎全体が軋むように揺れる。


 壁に走るヒビからは、闇と光が入り混じった霧が吹き出し、空間そのものが崩れていくのが分かった。


「しゅーくん!」


 愛菜が駆け寄る。


 修は片膝をつき、肩で荒く息をしていた。

 額からは汗が滲み、目の焦点はまだ戻っていない。


「……大丈夫だ……ちょっと、持ってかれただけだ」


 声は震えていたが、立ち上がろうとする意思は強い。


「にゃう(ヤバいにゃ、空間が閉じ始めてる)」


 ノクスが爪で、崩れ落ちる天井を弾き飛ばす。


「出口まで全力で走るぞ!」


 浜野先生が叫ぶ。

 だが、駅舎の奥から再び影が這い出し、通路を塞ごうとする。


「まだ残ってやがるのか……!」


 修が歯を食いしばる。


「しゅーくんの技で消えたのは“核”だけ、周りはまだ動いてるみたいだよ!」


 愛菜が叫び、護符を投げつけた。

 白光が影を焼き、道が一瞬だけ開ける。


「黒咲!」


 浜野先生が振り返る。


 結はその場で必死に修の腕を支えながらも、はっきりと頷いた。


「行きましょう! お母さんも、きっと外で待ってる!」


 その声に、修はわずかに笑みを浮かべる。


「……ああ、行くぞ!」


 走り出す一行。


 足元では線路がひび割れ、赤い光の裂け目が現れては閉じていく。


 天井の梁が落ち、粉塵が視界を曇らせた。


「しゅーくん!」


 愛菜が前方を指差す。


 ノクスが闇のエネルギーを帯びた爪を放つ。

 視界がクリアになった。


 その隙に浜野先生が先頭で進路を確保した。


「雨城、無理するな!」


 浜野先生が振り返る。


「……大丈夫、あと少しで」


 修は息を切らしながらも前を向く。


 その眼には、崩壊の中でなお生き残ろうとする強い光が宿っていた。


 改札が見えた。


 だがその直前、再び足元から無数の手が伸び、一行の足を掴む。


「にゃああ!(しつこいんだよコラ!)」


 ノクスが爪で一掃するも、進む度に絡みつく影が増えていく。


「出口が……閉まりかけてる!」


 愛菜が叫ぶ。


 改札の扉はゆっくりと闇に飲まれつつあった。


「全員──飛び込め!」


 浜野先生の声と同時に、全員が最後の力で駆け出す。


 修は結に肩を借りながら、愛菜とひよりは先に出る。


 最後尾を走るノクスが闇の爪で、迫る影を押し戻した。


 視界が光に包まれる。

次の瞬間、全員は駅前の広場に転がり出ていた。





 そこに、結の母の姿はなかった。





「……お母さん……」


 結が小さく呟く。


 修は息を整えながら、その肩に手を置いた。


「……きっと、まだどこかにいる。諦めねぇ……諦めねぇから……先輩も諦めちゃダメだ」


 結は涙をこらえ、力強く頷いた。


 背後を振り返ると、きさらぎ駅は音もなく霧の中に消えていった。

 次回予告


 第117話『失われた人影』


 脱出は成功。しかし結の母の行方は依然不明──次なる手がかりは、駅から持ち帰った小さな遺留品だった。


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