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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜  作者: 兎深みどり
第五章:そうだ、きさらぎ駅に行こう!編
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第115話『全員で帰るために』

 赤い光が旧駅舎の奥から脈打つように漏れ、木造の壁や床が不気味にきしんだ。


 改札の奥に見える黒い鎖は、先ほどよりも太く、脈動しながら締め付けている。


 そこからは無数の囁きがあふれ、「一人を残せ」という言葉が波のように押し寄せてきた。


「……気持ち悪い声だ」


 修が顔をしかめる。


「にゃう(これがこの駅の“核”だ)」


 ノクスが低く唸る。


「だったら、これを切れば……」


 愛菜が言いかけた時、床下から再び無数の手が飛び出した。


「来るぞ!」


 浜野先生が叫び、足元の手を踏みつけて蹴り飛ばす。


「結、下がれ!」


 修が背後に回り、結を押しやった。


「でも……お母さんが……」


「先輩まで危険な場所に立つ必要はない……先輩のお母さんだってそう思っています!」


 結は唇を噛み、震える声で言った。


「……絶対、皆で帰りたい……お願い、雨城君……」


 今までで一番悲しげな表情、そして、一粒の涙が落ちる。


 その視線に、修は短く頷く。


 ノクスが闇を纏った爪で敵を薙ぎ払う。


「にゃあ!(お前らは俺の獲物にゃ!)」


 爪が床板を裂き、吹き飛ばされた手が霧の中に溶けて消える。


 愛菜は結の前に立ち、護符を構えて敵を牽制する。


「しゅーくん、奥まで見える?」


「ああ……」


 修は視線を細めた。


 心眼に映る鎖は、今まで以上に強固で、表面にはびっしりと無数の影が貼りついていた。


 それぞれが人の形をしており、口を開けて同じ言葉を繰り返している。


 ──一人を残せ。一人を残せ。一人を残せ。


「……こいつらまとめて黙らせないとダメか」


 修が低く呟く。


「にゃう(芯があるぞ)」


 ノクスが指差すように顎をしゃくる。

 改札奥、鎖の奥底に黒く濁った球体──この駅全体の意志が凝縮されたような塊が見える。


「……あれを断てば終わる」


 しかし、その球体は厚い鎖に覆われ、壱式や弐式では届かないことが直感でわかった。


 浜野先生が短く息を吐く。


「……どうやってやるつもりだ?」


 修は小さく笑みを浮かべた。


「一つ……使いたくなかった技があります」


「技?」


 愛菜が首を傾げる。


「真語断ち・奥義零式──《虚空》。こいつはどんな霊でも一瞬で消し殺す。けど……使えば俺の心も削られる……」


 その言葉に場の空気が張り詰めた。


 思い出すあの修行後のばあちゃんの言葉。



「修、真語断ちには実は4つ目の秘儀がある……だが、ここまでやれたお前になら、使えるかも知れん……これは、どんな悪霊も消し殺す……その代わり、自身の精神を削る奥義……使い所はないに限るが、使う時は……分かるな?」



「そんな危ないの……」


 ひよりが息を呑む。


「やるしかねぇだろ。このままじゃ全員出られねぇ」


「修君……」


 結の声が届く。

 振り向くと、結は必死に涙をこらえながら言った。


「私……力はないけど、ここで帰りを待っています。だから、絶対に戻ってきてください」


 修はその瞳を見返し、短く「任せて」と答えた。


 その瞬間、改札奥の黒い球体が脈打ち、床下の手が一斉にこちらへ伸びた。


「来るぞ!」


 浜野先生が叫び、ノクスが爪で前方を覆う。

 愛菜が素早く護符を投げ、白い光が手の群れを弾き飛ばす。


「ひより!」


 修が声をかける。


 ひよりは頷き、空白の書を見る。


「10時の方向から本体が来るよ!」


「にゃおー!(しゅー!今だ!)」


 ノクスの叫び。


 修は一歩前に出て、深く息を吸った。


「(ばあちゃん……分かってる、それは皆を守る時、だよな!!)」


 心を決め、放つべき敵を睨む。




「真語断ち──奥義零式《虚空》」




 その声が旧駅舎全体に響いた瞬間、囁きが止まり、影も手も凍り付くように動きを止めた。




「……お前らの決まりごとなんざ──ここで終わりだ」




 言葉が放たれた瞬間、黒い鎖が一斉に弾け、球体が音もなく砕け散った。


 赤い光が爆発的に広がり、旧駅舎全体が激しく揺れる。


「にゃう!(退け! 崩れる!)」


 ノクスの叫びが響いた。

 次回予告


 第116話『零式・虚空』


 全てを消し飛ばす奥義の代償──崩壊する駅の中、全員で帰る道を探す最後の戦いが始まる。


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