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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜  作者: 兎深みどり
第五章:そうだ、きさらぎ駅に行こう!編
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第114話『旧駅舎の叫び』

 赤い靄がふっと薄れ、視界が戻った。


 修達の目の前にあったのは、古びた木造の建物──旧駅舎だった。


 瓦屋根は崩れかけ、窓は半分以上が割れている。

 壁には古いポスターが貼られているが、色は褪せ、文字は判読できない。


 入り口の上には、かすれて読めない駅名板。

 その木材は湿気を帯び、腐りかけていた。


「……いつの時代の駅なんだろう」


 愛菜が息を呑む。


「にゃう(たぶん、この駅が“きさらぎ”と呼ばれる前の姿だ)」


 ノクスが低く答える。


 愛菜が訳す。


「……“きさらぎ”になる前の駅だって」


 浜野先生は周囲を見回しながら、低く呟いた。


「いやに静かだな……」


 中に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。


 外の冷気とは違う、じっとりと肌にまとわりつく熱気。


 そして、鼻をつく鉄錆の匂い。


 古びた床板がギシリと鳴るたび、天井の梁から埃が降りてきた。


 広間の中央に、丸い木製の改札口がぽつんと置かれている。


 その上には、六枚の古い切符が並んでいた。


 そしてその奥──闇の中に駅員が立っていた。

 今は正面を向いているが、その目は真っ黒で底が見えない。


「ここで、決めてもらいます」


 駅員の声が、旧駅舎の壁に反響した。


「誰を残すのか……」


 その言葉と同時に、床下から不気味な音がした。


 ガリ……ガリ……と木を削るような音。


 そして──


 バンッ!と床板が割れ、無数の白い腕が飛び出してきた。


 皮膚は薄く、骨ばっているのに力強く、すぐ近くの柱に深く爪を立てた。


「うわっ……!」


 愛菜が飛び退く。


「にゃう(あれ、やばい奴らだ)」


 ノクスが前に出て、背を低く構える。


 手はまるで生き物のように這い回り、足首や裾を掴もうと伸びてくる。


「ここで決めなければ、全員……」


 駅員の声が冷ややかに続く。


「残る事になります……永遠に……」


 結が震える声で口を開いた。


「……私が」


「やめてください」


 修が遮る。


「でも……お母さんは……」


「気持ちは分かります!!だけど!その“でも”の先に、犠牲を出してまで得るもんがありますか?」


 修の声は鋭く、しかし真っ直ぐだった。


「……」


 結は唇を噛み、目を伏せた。


 床下の手が勢いを増し、愛菜の足首に掴みかかる。


「ひゃっ……!」


「離せ!」


 修が蹴り飛ばすが、手は再び伸びてくる。


 ノクスが爪を伸ばし、一閃で手を断ち切った。

 断たれた手は闇の中に吸い込まれて消えた。


「にゃう(……これ、破れるかもしれない)」


 ノクスが小声で言う。


 愛菜が素早く訳す。


「……破れるかもしれないって」


「破れる?」


 浜野先生が振り返る。


「にゃう(この手は駅員の“支配”で動いてる。奴の繋ぎ目を切れば、犠牲の条件ごと崩れる)」


「……繋ぎ目、か」


 修が駅員を睨む。


 ひよりが静かに前に出る。


「……この旧駅舎そのものが“結界”になってる。改札が中心。そこを壊せば、犠牲の儀式は成立しない」


「壊すって……どうやって?」


 愛菜が尋ねる。


「真語断ち。ここを縛っている“言葉”を断つ!」


 駅員が口角をわずかに上げた。


「……なるほど。だが……雨城、やれるのか?」


「やってみなきゃ分かりません」


 修が一歩踏み出す。


 床下から這い上がる手が、修の足元に群がる。


 浜野先生がその前に立ちはだかり、蹴り飛ばした。


「行け!時間はねぇ!」


「にゃあ!(急げ!)」


 ノクスが援護に回る。


 改札の前に立った修は、心眼を開いた。


 見えたのは、古びた木枠の奥に絡みつく黒い鎖。


 その鎖は無数の囁きでできており、“一人を残せ”という言葉が何百回も重なっていた。


「……くだらねぇルールだ」


 修の瞳が鋭く光る。


「真語断ち──壱式《魂打ち》!」


 放たれた言葉が鎖を打ち抜き、黒い囁きが一瞬だけ途切れる。


 改札口がわずかに揺れ、床下の手が一斉に引き下がった。


「効いた……!」


 愛菜が息を呑む。


「にゃう(だが、まだ完全じゃねぇ)」


 ノクスが警戒を解かない。


 駅員が低く笑った。


「面白い……なら、終わりまでやってみろ」


 その声と同時に、旧駅舎の奥から強烈な赤い光が吹き出した。


 ひよりが振り返る。


「……次で決めないと、全員ここに残る事になる」


 修は深く息を吸い込み、改札の奥に残った最後の鎖を見据えた。


 次回予告


 第115話『全員で帰るために』


 崩れ始めた儀式の。

最後の鎖を断ち切るため、全員がそれぞれの力を振るう。

犠牲条件を破り、全員で帰れるのか──。


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