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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜  作者: 兎深みどり
第五章:そうだ、きさらぎ駅に行こう!編
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第113話『闇の選択』

 影達が静かに、しかし確実に輪を狭めてくる。

その動きは獲物を逃がさない為の包囲網そのものだった。

赤い月の光に照らされたその輪の内側に、修達は立ち尽くしていた。


「……時間がない」


 浜野先生が低く言う。


「にゃう(あいつらは決まった“一人”を奪うまで動きを止めない)」


 ノクスが背を丸め、毛を逆立てて影達を牽制する。


 愛菜が短く訳す。


「“一人”を奪うまで止まらないって……一人……つまり犠牲者を?」


 愛菜が声を上げた。


「そうだよ」


 ひよりが頷く。


「この駅も、この電車も、“一人を残す”っていう法則で動いてる」


 駅員が一歩前に出る。

 逆光で顔は影になり、ただ口元だけがゆっくりと動いた。


「一人をここに置いていけば、全員が帰れる。置かなければ、全員がここで終わる」


 その声は冷たく、感情を含まない。


 結が拳を握りしめる。


「……私が残ればいいんです」


「結先輩!何言ってるんですか!」


 愛菜が叫ぶ。


「お母さんは……もう戻れない。それなら、私が──」


「結先輩、そんな事は言わないでください」


 修の声はきっぱりとしていた。


「そんな決め方、誰も納得しません」


 影達の包囲がさらに狭まり、距離はあと数歩。

 赤い靄が地面から吹き上がり、足元を覆い始める。


「にゃう(俺が残れば済む話だ)」


 ノクスがぼそりと呟く。


 愛菜がかぶりを振る。


「……ノクスは、自分が残るって!ダメ!!ノクスはボクの……」


 愛菜の声が震える。


「……家族だから」


「にゃ!にゃお!(家族だからこそ!残るんだよ!)」


 ノクスの瞳が血のように赤く光った。


 浜野先生が腕を組んだまま、低く吐き捨てる。


「俺が残ればいい」


「先生!?」


「生徒の代わりになれるなら……安いもんだ」


「ダメです! 先生は……」


 結の声が詰まる。


「にゃあ(やれやれ……この場は譲らねぇって顔が並んでるにゃ)」


 ノクスがため息をつく。


 修は全員を見渡し、短く言った。


「誰が残るかは、俺は決めない」


「でも、それじゃ……」


 愛菜が言いかける。


「全員で帰る方法を探す」


 修の声は断固としていた。


「そんな駅員の言う事、真に受けねぇ」


 駅員が小さく笑った。


「決められないなら、それもまた選択です。全員……ここで消える」


 その声と同時に、影達が一斉に動き出した。


 ひよりが小さく手を上げる。


「……選びたくないなら、力を合わせるしかない」


「合わせるって、どうやって……?」


 結が振り返る。


「この輪を破ればいい。犠牲の条件は、“完全な包囲”が前提だから」


「にゃう(つまり、ぶち壊せって事か)」


 ノクスが低く唸った。


 愛菜が即座に訳す。


「“輪”を壊せって」


 だが影達は容易には退かない。

 触手のように伸びた腕が、修の肩を掴みかける。


「くそっ……!」


 修は振り払い、心眼を開いた。


 見えたのは、影達の中心にある黒い糸。

 それが駅員の胸元から伸び、輪全体をつないでいる。


「……お前が操ってるのか」


「操っているのではない。これは“決まり”だ」


 駅員が淡々と返す。


「じゃあ、その決まり諸共断ち切ってやる!」


 修が歩を進める。


 しかし影の一体が修の前に立ちはだかった。


 瞬間、ノクスが飛び込み、その影を横からはね飛ばす。


「にゃあ!(早く行け!)」


 愛菜が叫ぶ。


「ノクスが『早く行け!』って!」


 愛菜の声が重なる。


「任せろ!」


 修はその隙に駅員の目前まで踏み込み、真語断ちの構えを取った。


「……お前達が決めたルールなんざ、俺達には通用しねぇ!!」


 その言葉に駅員の瞳がわずかに揺れる。


「真語断ち──壱式《魂打ち》!」


 放たれた言葉が黒い糸を断ち、輪が一瞬緩んだ。


 しかし、それでも完全には崩れない。

 影達は再び動き始め、今度は全員に向かって飛びかかってきた。


「時間切れだ」


 駅員の声が低く響く。


 赤い靄が一気に立ち込め、視界が奪われる。

 全員の顔が見えなくなり──誰が残るのか、次の瞬間には決まってしまうのか……。

 次回予告


 第114話『旧駅舎の叫び』


 犠牲を選ばせる儀式の場へ。

だが修達は、まだ全員で帰る道を諦めていなかった──。


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