第11話『ノクス、夜を駆ける』
深夜0時。
大学の裏手に広がる静かな住宅街。
細い路地を、ふわりと浮かぶ黒い猫影が音もなく駆け抜けていく。
それは、俺達の知る猫型妖怪、ノクスだった。
「……ニャ」
ノクスが足を止め、夜空を見上げる。
満月だが、雲に隠れて光は乏しい。人の気配がまばらな深夜の街に、濃い“霊の匂い”が漂っていた。
ノクスの瞳が細くなった。
「にゃう(出たな……面倒な奴)」
◆
数時間前、オカルト研究同好会の部室。
「んー……今日は特に怪異もないし、ゆっくりしようか」
「ふふ、ちょっとだけノクスちゃんをモフってもいい?」
「しゃー!(今日はダメだ)」
「えぇっ!?怒られたー!」
「ノクス……? 何か今日は様子が違う」
俺が言いかけた瞬間、ノクスが愛菜のリュックから跳び出した。
「ノクス!?」
「どこ行くのっ!?」
ノクスはドアを爪で開けてひと鳴き。
「にゃう(おれに任せろ)」
そう言い残し、夜の街へ飛び出していった。
「……珍しく真面目スイッチが入ったみたい?」
「うん。あれは、妖怪としての使命かも」
「使命……?」
「夜にしか現れない、ノクスの一族が代々追っている、ちょっとヤバい奴がいるんだ」
◆
一方、住宅街の朽ちた公園。
そこには人の形をしているが、顔のない真っ白な仮面のような“何か”が、ブランコに揺られていた。
霊でも妖でもない、その正体は……。
「にゃ……にゃあ(化け損ないめ……お前の時間はここまでだ)」
ノクスがゆっくり前に出る。
『…………ノスフェラトゥ……』
風が鳴り、無音の声がノクスに対してそうささやいた。
瞬間、地面を這う影が牙をむく。
“影喰らい”。人間の影に潜み、意識を削り取って消してしまう、邪悪な妖魔。
「にゃあああ!(誰の街だと思ってんだ!)」
ノクスの目が光り、影が弾けた。
公園の空気が反転し、光のない夜に一条の月光が差し込む。
◆
戦いを終えたノクスがふらりと足を止める。
背に、小さな影が飛びついた。
「ノクスぅぅぅう!!」
愛菜だった。
「心配したよぉおお!! 急に飛び出してどこ行ってたの!?」
「にゃ、にゃあ……(ちょっと仕事してただけ)」
「しゅーくんと結先輩も探し回ったんだよ!? 変な空気になってて、先生まで来たし!!」
「にゃあっ!?(それはマジでごめん!!)」
「でも……おかえり、ノクス」
「……にゃ(ただいま)」
愛菜の腕の中で、ノクスは目を細めた。
街は静かだ。
今夜も、俺達の知らない所で、“誰か”が戦っていた。
次回予告
第12話『先生、遭遇する?』
UFOを信じる大人は、案外かっこいい――かもしれない?
真夜中の大学屋上で、先生が“何か”と出会う。
信じる心が、空に届く。
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