第107話『笑う地蔵と喰われる夜』
第四章:心スポ探訪編ラスト!!
地蔵の口が、音もなく開いた……
その奥には、空洞のようで、空洞ではない――“何か”の眼。
それは人の目ではない。感情を持たず、ただ見ている存在。
修達の視界が、そいつに乗っ取られた。
異様な視界が流れ込んでくる。
黒い森、朽ちた神社。そして――“見ている誰か”の視点。
「……く、る……」
愛菜が、目を見開いたまま声を漏らす。
「ヤツの視界の中に、ボク達がいる……逆に見られてる!」
「うわ、これ完全に逆ハックされた感じじゃねぇか……!」
修が悪態をつくも、体は動かない。
硬直したように、皆、そこに“立たされている”。
赤子の泣き声が、遠くから響く。
最初はひとつ。
次第にふたつ、みっつ……増えていく。
「七つの地蔵、それぞれに一人ずつ宿ってるの……?」
結がつぶやく。
「違う……一体が全部を呼んでる。あれが、口の開き手」
祭壇の下――土がぬるりと動いた。
ズルズルと這い出してきたのは、腕。
長く、関節が異様にねじれていて、まるで土中で作り直されたような不自然な形。
続いて、首のない胴体。
そして、地蔵のように“口だけ”の顔。
その“それ”が、ニィ……と、口だけで笑った。
「やばいやばいやばい、動けねぇ……!」
修が呻いたその瞬間――
空が割れた。
バチィィィィン!!!
閃光と共に、上空から落ちてくる影。
「生体エネルギー反応探知完了!指定対象三名、全員ピンチと判断――!」
ズガアアアアアアンッ!!
空から降ってきた人影が、七体目の地蔵の口に向けて拳を叩き込む。
「《メテオナックル》!!」
直後、衝撃波が山全体を揺らした。
地蔵の頭が粉々に砕け、背後の祭壇もろとも崩れ落ちる。
あの口だけの顔も、黒煙を残して消滅した。
硬直が、解けた。
「……せ、先生!?」
修達の目の前に立っていたのは、光る片目と蒸気を上げる義手を持つ、浜野京介だった。
「ふぅ……ぎりぎりセーフって所か?」
「先生、なんでここが……!」
愛菜が叫ぶ。
「ふっふっふ……我が義体に搭載された最新型エネルギー探知センサーがな――この辺り一帯の“異常霊的バースト”をキャッチしたのだよ!」
「それ……もはや生徒にストーキングしてるレベルじゃ……」
修が呆れ顔を向けるが、結は小声でつぶやく。
「でも……先生が来なかったら、私達……」
「ま、間に合って良かったって事にしとけ」
先生は、爆心地になった地蔵の台座を見て、ぽりぽりと頭をかいた。
風が吹いた。
夕闇に虫の声が戻り、世界はほんの少し“正常”に戻ったように見えた。
「これで、七体目の地蔵は……」
結がつぶやく。
「喋らなかったな……むしろ喋る暇もなく、メテオされて終了って感じだが」
修が苦笑した。
「これで、終わり?」
そう言いながら、修がふと足元にあった紙切れを拾った。
例のチラシだった。
《七体開眼法要》――あなたも、目撃者になれます。
その下に、小さく、こう続いていた。
“八体目、ただいま準備中”
「……は?八体?」
「七体で終わらせてよ……」と愛菜が震えながら言いかけたその時。
「もう、関わるのやめよう、めんどい」
全員賛成、満場一致した。
「……ていうか……」
ふいに結が、あたりを見回す。
「ノクスは?」
沈黙。
全員、顔を見合わせる。
「……あれ? 今日、いたっけ?」
「え……」
「オイ、まさか……」
皆が心配する中、突然闇の中から現れるノクス。
「にゃ〜(どうしたお前ら?)」
「どうしたってノクス心配したんだよ!」
「さっきまで忘れてたけどな」
「にゃー(集会に行ってたんだよ、妖怪達の、な、そこで、面白い事聞いてきたぞ!)」
呑気なノクスに半笑いの愛菜。
和む結、それらを見ながら修と浜野は
長い夏休みの夜空を眺めていた。
ーーこの時の事が後の大事件に繋がるとは、この時のオカ研の面々は、まだ知らない……。
次回予告
新章突入!
第五章:そうだ、きさらぎ駅に行こう!編
第108話『きさらぎ駅に行こう!』
修達が夜のローカル線に乗り、きさらぎ駅への“行き方”を検証!
ネットの怪談をネタに笑いながらも、ひよりだけは無言で外を見つめる。
車窓の景色が急に変わり、トンネルを抜けると無人のホームに到着。
「ここが……きさらぎ駅?」
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