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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜  作者: 兎深みどり
第四章:心スポ探訪編
106/139

第106話『供養の夜に来るもの』

 9月9日。

 午後5時40分。


 神社の裏手にある未舗装の参道を、三人は無言で歩いていた。


 蒸し暑さに背中が汗ばみ、湿った空気が肌にまとわりつく。

 参道脇の杉の葉が揺れるたび、何かがこちらを見ているような気配がする。


 空はまだ夕焼けにも染まらず、妙に赤黒い曇天だった。


「……本当にやるのか、この“供養”って奴」


 修が口を開いた。


「やらなきゃ、また“来る”気がする。あの夢みたいな、いや、あれ以上のものが」


 愛菜が顔を上げた。

 顔色は悪い。

 手には例のチラシが握られている。


 《七体開眼法要》。


 その言葉が、脳裏で反響する度、背中がざわついた。


「多分……この“法要”は、供養じゃなくて、“開口の儀式”なんだと思う」


 結がぽつりとつぶやく。


「開口?」


「夢で見たの。七体目の地蔵……“口”だけがあるやつの中に、何かいた。喋ってた。言葉にはならなかったけど、最後にこう言ったの。“入っておいで”って」


 修と愛菜が息を呑む。


「それ、呼ばれてるって事じゃ……?」


「うん。あれは見せられたんじゃない。“選ばれてる”」


 小さな鳥居をくぐると、急に空気が変わった。


 生臭いような、土の腐ったような匂い。

 風が吹かない。

 虫の声も消えた。


 そこに――いた。


 古びた祭壇。

 白い布に覆われた台座。

 そして、七体の地蔵。


 左右に三体ずつ。

 真ん中に、一体。


 その“中央”の地蔵だけが、顔を持たず、口だけが彫られていた。


 その口は、まだ開いていなかった。


 だが、確かに“笑っていない”。


「なあ、誰もいないのに……供養って、どうやって始まるんだ……?」


 修の声に、結がそっと指をさした。


 その地蔵の背後――祭壇の影から、“誰か”が現れた。


 白装束。

 顔が見えない。

 その手には、古びた“木魚”があった。


 コン……コ……ン……。


 低く、間を開けて木魚が鳴らされるたび、空気が振動する。


 七体目の地蔵の口が、僅かに震える。


 「やばい……これ、もう始まってる!」


 愛菜が叫ぶ。

 逃げ出そうとしたその瞬間――地面が、揺れた。


 ゴグ……ゴグゴ……


 祭壇の足元の土が、音もなく沈む。


 そして、声がした。


 男でも女でもない。人の言葉でもない。


 けれど確かに、“こちらへ”と招いている。


「結先輩、これ……あの夢と一緒……?」


「違う。これは――夢の“先”だよ」


 結がそう言った時、七体目の地蔵の口が、完全に開いた。


 中には、空洞があった。

 いや――空洞の“形をした何か”が、こちらを見ていた。


 視界が、ジャックされた。


 まるで映像のように、別の場所が流れ込んでくる。


 古い神社。

 黒い森。

 そして、“誰かがこちらを見ている視界”。


 修達はその視界の中にいた。


 「やばい、視られてる! 今度は向こうから!」


 サイレンは――鳴らなかった。


 代わりに、どこか遠くで、赤子の泣き声が響いた。


  次回予告


 第107話『笑う地蔵と喰われる夜』


 供養ではない。“開く”ための夜。

七体すべてが揃ったとき、“それ”が来る。

見てはいけない。だが、目を逸らせば――そこにいる。


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