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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜  作者: 兎深みどり
第四章:心スポ探訪編
105/139

第105話『七つ目の口』

 六つの地蔵がある


 その背後にもう一つの地蔵がこちらを指さす。


 ーーまだ、終わっていない……七つ目がまだ……




 夢だった。


 けれど、確かに“見せられていた”。


 結は、朝の陽射しが差し込む自室で、冷や汗にまみれて目を覚ました。


 寝巻きが湿っている。

 部屋の空気は妙に重く、空気清浄機が赤い警告灯を灯していた。


 彼女は自分の胸元に手をやり、寝ている間に無意識に爪を立てていた事に気づく。


 爪痕が赤く腫れ、皮膚が少し破れていた。


「六体じゃ……なかった……」


 夢の中で聞いた“声”が頭にこびりついて離れない。

 あの集落にあった地蔵は、確かに六体だった。


 だが、昨夜の夢では――七体目があった。


 石で出来たそれは、他のどれとも違っていた。


 顔がなかったのだ。

 だが、口だけがあった。


 ぽっかりと開かれた、笑っていない口。


 誰かがその口を“覗いて”いた。

 誰だったか、思い出せない。

 ただ、ぞっとするほど静かで、深くて、空っぽだった。


 結はLINEを開いた。

 修と愛菜に夢の事を伝えようと指を動かすが、何故か送信ボタンが押せなかった。


 ――まるで、誰かに止められているような。



 一方、修は大学の図書館にいた。

 あの地蔵の貼り紙の事が頭から離れず、「羽生蛇村」「岳集落」「封鎖」等のキーワードを何度も検索していた。


 だが、出てくるのは、全てゲーム『SIREN』に関する情報ばかり。

 現実の地名としての記録は、どこにも存在しない。


 「本当に“あれ”は、現実だったのか……?」


 思わずつぶやく。


 そこへ、愛菜が息を切らしてやってきた。


「しゅーくん……見つけた……ボク、また……」


 彼女の手には、コンビニで拾ったというチラシが握られていた。


《新設地蔵尊 七体開眼法要》

《9月9日 午後6時〜 某神社裏手にて》

《参列自由・無償供養》


 修の目が凍る。


 “七体”。


「これ、まさか……」


「ここに来て、七体ってさ……妙だよね?」


 愛菜が声を潜めて言う。


 “誰かが、わざとやっている”。


 供養の名を借りて――何かを“開こう”としている。



 その夜。

 結の身に、また“夢”が訪れた。


 今度は、自分ではなく“別の何者か”の視点だった。


 草の生えた墓地の裏。小さな祠。

並ぶ七体の地蔵。


 その一番右端の地蔵――顔のない地蔵が、ゆっくりと口を開く。


 ガリ……ガリリ……

 石のきしむ音が、現実の耳にまで届くような感覚。


 その口の奥に、何かがいた。

 人ではない、何か。


 黒い影。無数の指。

 そして、歯。


 “開いた口”の中に、口があった。


 歯が並び、舌が動き、何かを喋っていた。

 けれど、その声は反転し、ねじれ、意味を成さなかった。


 唯一、はっきりと聞こえたのは――最後の一言だった。


 「入っておいで」


 結は飛び起きた。

 そして、窓の外を見る。


 向かいの公園の隅に、一つの石像が立っていた。


 街灯の下で、笑っていない口だけが、こちらを向いていた。

 次回予告


 第106話『供養の夜に来るもの』


 “七体目”が目覚める夜、神社の裏で何が行われるのか。

これは供養ではない。――開口の儀式だ。


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