表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜  作者: 兎深みどり
第四章:心スポ探訪編
104/137

第104話『笑う石仏と森の音』

 それは、何気ない日常に混じっていた。


 大学の部室に戻り、夏休み中の気だるい雰囲気がキャンパスに漂う。


 蝉の声、アスファルトの照り返し、汗ばむ空気。

 数日前の出来事が、夢だったように思えてくる。


「しゅーくん、ちゃんと寝てる?」


 愛菜が自販機の前で尋ねた。


「まあな……夜は寝苦しいけどな」


 修は缶コーヒーを手に取りながら、軽く笑って返す。


 だが、その笑顔は、どこか張りついていた。


 あの“岳集落”から帰ってきた後、三人はそれぞれ日常に戻った。


 だが、心の奥底に、何かが引っかかっている。


 “まだ五体、残ってる”――あの紙の文字が。


「結先輩、来てないね」


「うん。熱っぽいって……LINE来てたけど」


 愛菜の声が心なしか沈んでいた。


 その時、近くの掲示板に何気なく目を向けた修が、ピタリと動きを止める。


 ――そこに、貼り紙があった。


《落とし物 地蔵(大)/文学部前にて発見》

《現在、学生課にて保管中》


「……おい、これ」


 愛菜もその紙を見て、顔色を変えた。


「……地蔵?」


 それは、まぎれもなく“見覚えのある顔”だった。

 六体のうちのひとつ――首を傾け、笑う地蔵。


 修と愛菜は駆けるようにして、学生課の窓口に向かった。


 ガラスの奥に――置いてあった。


 “それ”は、本当に、そこにあった。


 高さおよそ四十センチ。灰色の石。

 滑らかすぎる質感。歯のようなものが浮かぶ笑顔。

 そして、首は、少しだけ、左に傾いている。


「誰が持ってきたんですか、これ……?」


 修が窓口越しに尋ねると、職員は首を傾げて笑った。


「それがね、誰も見てないのよ。朝来たら、置いてあったの。不気味だよねぇ、ハハ」


 愛菜が袖を握る。震えていた。


「見てる……これ、見てる……」


 修も感じていた。

 まるで、目が合っているような感覚。

 魂の奥を覗きこまれるような、ねっとりとした視線。


 その夜。


 修の部屋のベランダに、何かが立っていた。


 網戸越しに、わずかに見える影。

 音もなく、気配だけが空気を撫でる。


 そっとカーテンを開けると、誰もいなかった。


 だが、ベランダの床には――白い砂利が、ひとつぶだけ。


 あの地蔵の周囲にあった、あの、異様に白い砂。


 スマホの画面が急に暗転した。


 そして、勝手に再生された動画。


 そこには、森の中。

 笑う石仏の前に、三体の人影が立っていた。


 ――修、愛菜、結。


 まるで、外から“撮られていた”ような映像だった。


 そして、ラストカット。


 地蔵の背後から、何かがこちらを見ていた。


 黒い輪郭。無数の指。

 そして――“もうひとつの顔”。


 画面が真っ黒になったあと、画面中央にだけ表示されていた。


《また、くるね》


 翌日、結から連絡が入った。


《おはよう。ごめん、今日は大丈夫。……ただ、少し変な夢見てた》


《六体、じゃなかったみたい》

 次回予告


 第105話『七つ目の口』


 地蔵は“余分”だった。もう一体、“余計な存在”が混じっている。

開いた口が、また一つ――夜を喰い始める。


 最後まで読んでいただきありがとうございます!

評価(★★★★★)やブックマークで応援していただけると嬉しいです。

続きの執筆の原動力になります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ