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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜  作者: 兎深みどり
第四章:心スポ探訪編
103/140

第103話『夜を裂くもの』

 地蔵の一つが、首を傾けていた。


 風等無かった。

 虫の音さえ、遠くでかすかに聞こえるだけだった。


「……見間違い、じゃないよな?」


 修がゆっくりと一歩引いた。

 愛菜と結も、すでにその場から動けずにいた。


 六体の地蔵。

 その内の一体だけが、まるでこちらに首をかしげるように傾いている。


 にこり、と笑って。


 ほかの地蔵はどれも古びた石像で、ひび割れもあり、風化も激しい。


 だが“それ”だけが、あまりに滑らかで、新しかった。


 まるで、誰かが――今朝ここに置いたような。


「もう帰ろう。山道、戻れるんでしょ? もう……大丈夫なんでしょ?」


 愛菜が、か細い声で言う。


 だがその時、音がした。


 ――ベチャ。


 湿った何かが、地面に落ちたような、生々しい音。


「……今の、何?」


 結が振り返る。


 木々の間。

 誰もいないはずの獣道の向こうに、影があった。


 何かが、這っていた。


 白く細長い腕。

 土と血にまみれたような髪の塊。

 そしてその中心に、“人の顔”のようなものが幾つも重なっていた。


「ちょっ……まって、それ、まだ……」


 修の言葉より早く、サイレンのような音が一瞬だけ鳴った。


 だがそれは、電子音ではなかった。

 

 “人の声”だった。


 ――「やっと……みつけた……」


 低く、かすれた女の声。


 笑っているようにも、泣いているようにも聞こえる声。


「走れ!」


 修が叫ぶと同時に、三人は再び山を駆け出す。


 朝の光はまだ消えていない。

 だが、その後ろを、確かに“何か”が追ってきていた。


 獣のように四つ足で、地面を舐めるように進み、

 時折木の幹に顔を擦り付けて、笑っている。


 その笑い声が、徐々に増えていく。


 一人、二人、三人――数えきれない声が、笑っている。


 やがて、森が裂けた。


 突然、開けた舗装道路。

 標識。

 ガードレール。

 電線。


 現実が、そこに戻ってきた。


 「出た……っ!」


 修の声が裏返る。

 愛菜がよろけ、結が泣きそうな顔で彼女を支える。


 だが、振り返ると、森の奥にあったはずの道は――もう、無かった。


 そこは、ただの深い木々の壁。

 地蔵も、社も、あの村の名残さえ、全て消えていた。


 ポケットで、修のスマホが鳴った。


《現在地を特定出来ません》


「……は?」


 GPSは狂ったままだった。


 だが、空は明るく、木漏れ日も確かに心地よく……。


 けれど、ふと。


 修の後ろポケットに、何かが入っている事に気づく。


 取り出すと、それは折りたたまれた紙切れだった。

 開くと、そこには文字が書かれていた。


 赤い、指でなぞったような筆跡で。


《あの夜は終わらない。まだ五体、残ってる》


「……嘘だろ……」


 呟いた修の耳に――


 ガサ……ガササ……と、木の間で何かが動く音が届いた。


 次の瞬間、道の向こうから、一台の軽トラが走ってきた。


 老人が窓から顔を出し、三人に気づいて停まる。


「おお、あんたら、こんなとこで何してんだ。熊出るぞ」


 その一言で、現実がようやく戻ってきた気がした。

 だが修達は、安堵しきれなかった。


 ――“まだ五体、残っている”。


 あの地蔵の視線は、終わっていなかった。

 次回予告


 第104話『笑う石仏と森の音』


 帰還しても終わらない異変。地蔵は山に留まっていない。

“笑っている”のは、すでに人の形をしていなかった――。


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