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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜  作者: 兎深みどり
第四章:心スポ探訪編
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第102話『赤い夜が明けるとき』

 逃げた。


 とにかく、崖を転がるように、三人は走った。

 枝が顔を叩き、岩が足を滑らせ、泥で手が切れた。


 それでも、止まる事は出来なかった。


 振り返れば、地蔵の顔をした“それ”が這ってくる。

 笑いながら。

 無数の目で、こっちを“視て”くる。


「ひっ……!」


 愛菜が足を取られて転んだ。

 修が即座に肩を抱えて立たせる。

 その腕を結が引っ張った。

 三人の息はもう、限界だった。


 ――そして、崖の下に、小さなトンネルのような穴が見えた。


「……あそこ!」


 修が叫ぶ。

 穴の奥には、かすかに揺れる青白い光があった。

 どこか――現実の空気を感じさせる色。


 希望だった。


 三人は這うようにして穴に入り込む。

 背後で、異形の者達が悲鳴とも笑い声ともつかぬ音を上げ、迫ってくる。


 だが、地蔵の顔が穴の入口に到達する直前――


 “時”が止まった。


 空気が凍りついたように、すべての音が途絶える。


 空間がねじれるような感覚。

 修達の周囲に、白い光がじわじわと広がっていく。


「……ここ……夢、なの……?」


 結が呟いた。


 愛菜が震える手で修の腕を握る。


「違う……ここは、“ゲームのバグ空間”みたいな……」


 修の目の前に、再び“視界”が広がる。

 だがそれは、さっきの地蔵や村人の視界ではなかった。


 ――何か、巨大な“視点”だった。


 神のように村全体を俯瞰し、すべての行動を“見下ろしている目”。


 その“視点”が語りかけてくる。


『ループ終了。最終データ破損確認。脱出フラグ、成立。』


 意味が分からなかった。

 だが、白い光が全てを飲み込んでいくのを、三人は感じていた。


 ――もう一度、現実に戻れるのかも知れない。


 ――あるいは、別の“次のループ”に入るだけかもしれない。


 しかし、それでも。


「帰るぞ……絶対に」


 修のその言葉が、虚空に響いた時。


 世界が、反転した。


 赤黒い空が、朝焼けに変わる。

 地蔵の顔が、ただの石像に戻る。

 社は再び朽ち果て、新聞は風に吹かれて消えた。


 そして――


 三人は、元いた山道に、立っていた。


 いつの間にか日が昇り、蝉が鳴いている。

 空は青く、森の匂いが現実のものだった。


「……帰って……きた?」


 愛菜が、小さく呟いた。


「……分かんねえけど……多分、な」


 修は額の汗をぬぐい、力なく笑った。


 結がそっと地面に座り込む。

 そして、空を見上げる。


「赤い夜が、明けたのね……」


 だが、修の足元に――あの“新聞”が、まだ一枚だけ残っていた。


《羽生蛇村 完全封鎖へ》

《昭和七十八年八月五日 岳新聞》


 そこに、血のような赤いインクで、別の一文が追加されていた。


《※脱出者 三名 確認。次回ループ:調整中》


「……なんだよ、これ……」


 修が呟いた瞬間、背後で微かに、


 カタ……ン……


 何かが動いたような音がした。


 ――六体の地蔵のうち、一つが、首を少しだけ、傾けていた。

 次回予告


 第103話『夜を裂くもの』


 ループは終わっていなかった。

残された一体の地蔵が、静かに微笑む時、新たな“音”が始まる――。


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