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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜  作者: 兎深みどり
第四章:心スポ探訪編
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第100話『消えた集落と六体の地蔵(前編)』

今回はPS2ソフトのサイレンの舞台になった村での話……


そして100話記念になります!


怒られたら……名称変えます!!

 カーナビが沈黙して、すでに三十分が経過していた。


「……おい、ここって本当に道か?」


 ハンドルを握る京介が、ぴくりと眉を動かす。

 山肌を削って無理やり通したような未舗装の林道を、レンタカーの車輪がガタゴトと揺れながら進んでいた。


「ボクのスマホも圏外……。しゅーくん、どこに向かってるの? この“岳集落”って、本当にあるの?」


 助手席の愛菜が、不安げに画面を何度も更新しているが、表示されるのは「検索結果なし」の文字だけだ。


「――ああ。あるはずだった。少なくとも、昨日までは地図に載ってた」


 後部座席の修は、鞄から取り出した昭和時代の古地図を広げた。

 そこには確かに、「岳集落」という文字が書かれている。

 小さな神社の印と、六体の地蔵の記号。そして「×」印で塗りつぶされた区域。


「……変な事言うけどさ」


 結が口を開く。


「この道、ずっと同じ場所をぐるぐる回ってる気がするの。通った木とか、岩とか……全部、既視感がある」


 その言葉に、車内の空気が一瞬にして緊張する。


「戻ろうか。こういうのって、無理に進むと――」


 京介がUターンしようとハンドルを切った、その時。


 ――プツン。


 突然、車のエンジンが止まった。


「え、ちょ、ウソでしょ!? いきなり!?」


 愛菜が叫ぶ中、京介は何度もキーを捻るが、エンジンはうんともすんとも言わない。


 沈黙。

 山の奥の奥、誰もいないはずの場所で、風すらも止まったかのようだった。


 ……しかし。


 その静寂を破ったのは――


 「ぽーーーーーっ」


 低く、歪んだサイレンの音だった。


 遠く、谷の向こうから、まるで深海から響くような音。


 誰かが鳴らした警報のようでもあり、何かを呼び覚ます合図のようでもあった。


 愛菜が震えながら言った。


「……サイレン……まさか……」


「――雨城君」


 結の声がかすれる。


 修は静かに鞄の中から一枚の新聞を取り出した。

 それは、集落の入口で拾った“ありえない”新聞だった。


 『羽生蛇村、全域浸水――村民消息不明(昭和七十八年 八月)』


「……この村、ゲームの中と同じ名前だ」


 修の呟きに、全員が凍りつく。


 



 


 結局、車は動かず、四人は徒歩で集落を目指す事にした。

 道中、誰も言葉を発しない。鳥の鳴き声も、風の音もしない。

 あるのは、頭の奥に響くような、残響音のような不快なサイレンだけ。


 しばらくして、急に視界が開けた。


 朽ち果てた鳥居。

 倒れた木造の祠。

 根元から傾いた石段。


 そして、その下に整列するように立っていた。


 六体の地蔵。


 どれも、異様だった。


 一体は口元が裂け、笑っていた。

 一体は赤子を抱き、目を閉じていた。

 一体は……首がなかった。


 そして、最後の一体には、最近供えられたばかりのような花が添えられていた。


「こんな山奥、誰が……?」


 結の声に、誰も答えられない。


「ちょ、ちょっと待って……」


 愛菜がふらりと地蔵に近づいた瞬間。


 がらん……


 賽銭箱の中から、何かが転がり落ちた。


 それは、ゲームのディスクだった。

 PS2用ソフト『SIREN』。

 だが――ラベルの記載が違う。


 タイトルは、


 『SIREN:再臨』


「そ、そんなの出てないよ!?続編って、2とNTだけだったはずでしょ!?」


 愛菜が悲鳴のように言う。


 修は黙って、ディスクを拾い上げた。


 ラベルの裏には、こう書かれていた。


 “視られている。君達も。”


 



 


 その夜、祠の裏にテントを張り、何とか野営の準備を整えた四人。


 食料を分け合いながら、浜野が呟いた。


「なあ雨城。お前、あの新聞とゲームの事、何か知ってるんじゃないのか?」


「知らない。ただ……」


 修は焚き火の炎を見つめながら、答える。


「……ゲームの中でしか存在しなかったはずの“羽生蛇村”が、実在したとしたら――」


 ごう、と風が吹いた。誰もいない山中で、誰かの足音が聞こえた気がした。


 結が立ち上がる。


「……今、誰か、いた?」


 誰も、答えられなかった。

 代わりに、静寂を割るようにまた鳴り響いた。


 ――ぽーーーーーっ……


 それは、明らかに距離が近づいていた。


 焚き火が、風もないのに、逆巻いた。


 修が小さく呟く。


「これは……歓迎されてるんじゃなくて――」


 “呼ばれてる”んだ。

 次回予告


 第101話『消えた集落と六体の地蔵(後編)』


 鳴り響くサイレンと共に、集落の“もうひとつの顔”が姿を現す。

夜が深まるにつれ、彼らは視界ジャックを強制され、

逃げ場のない“儀式”が始まる――。


 その村に、夜明けは来ない。


 最後まで読んでいただきありがとうございます!

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