第100話『消えた集落と六体の地蔵(前編)』
今回はPS2ソフトのサイレンの舞台になった村での話……
そして100話記念になります!
怒られたら……名称変えます!!
カーナビが沈黙して、すでに三十分が経過していた。
「……おい、ここって本当に道か?」
ハンドルを握る京介が、ぴくりと眉を動かす。
山肌を削って無理やり通したような未舗装の林道を、レンタカーの車輪がガタゴトと揺れながら進んでいた。
「ボクのスマホも圏外……。しゅーくん、どこに向かってるの? この“岳集落”って、本当にあるの?」
助手席の愛菜が、不安げに画面を何度も更新しているが、表示されるのは「検索結果なし」の文字だけだ。
「――ああ。あるはずだった。少なくとも、昨日までは地図に載ってた」
後部座席の修は、鞄から取り出した昭和時代の古地図を広げた。
そこには確かに、「岳集落」という文字が書かれている。
小さな神社の印と、六体の地蔵の記号。そして「×」印で塗りつぶされた区域。
「……変な事言うけどさ」
結が口を開く。
「この道、ずっと同じ場所をぐるぐる回ってる気がするの。通った木とか、岩とか……全部、既視感がある」
その言葉に、車内の空気が一瞬にして緊張する。
「戻ろうか。こういうのって、無理に進むと――」
京介がUターンしようとハンドルを切った、その時。
――プツン。
突然、車のエンジンが止まった。
「え、ちょ、ウソでしょ!? いきなり!?」
愛菜が叫ぶ中、京介は何度もキーを捻るが、エンジンはうんともすんとも言わない。
沈黙。
山の奥の奥、誰もいないはずの場所で、風すらも止まったかのようだった。
……しかし。
その静寂を破ったのは――
「ぽーーーーーっ」
低く、歪んだサイレンの音だった。
遠く、谷の向こうから、まるで深海から響くような音。
誰かが鳴らした警報のようでもあり、何かを呼び覚ます合図のようでもあった。
愛菜が震えながら言った。
「……サイレン……まさか……」
「――雨城君」
結の声がかすれる。
修は静かに鞄の中から一枚の新聞を取り出した。
それは、集落の入口で拾った“ありえない”新聞だった。
『羽生蛇村、全域浸水――村民消息不明(昭和七十八年 八月)』
「……この村、ゲームの中と同じ名前だ」
修の呟きに、全員が凍りつく。
◆
結局、車は動かず、四人は徒歩で集落を目指す事にした。
道中、誰も言葉を発しない。鳥の鳴き声も、風の音もしない。
あるのは、頭の奥に響くような、残響音のような不快なサイレンだけ。
しばらくして、急に視界が開けた。
朽ち果てた鳥居。
倒れた木造の祠。
根元から傾いた石段。
そして、その下に整列するように立っていた。
六体の地蔵。
どれも、異様だった。
一体は口元が裂け、笑っていた。
一体は赤子を抱き、目を閉じていた。
一体は……首がなかった。
そして、最後の一体には、最近供えられたばかりのような花が添えられていた。
「こんな山奥、誰が……?」
結の声に、誰も答えられない。
「ちょ、ちょっと待って……」
愛菜がふらりと地蔵に近づいた瞬間。
がらん……
賽銭箱の中から、何かが転がり落ちた。
それは、ゲームのディスクだった。
PS2用ソフト『SIREN』。
だが――ラベルの記載が違う。
タイトルは、
『SIREN:再臨』
「そ、そんなの出てないよ!?続編って、2とNTだけだったはずでしょ!?」
愛菜が悲鳴のように言う。
修は黙って、ディスクを拾い上げた。
ラベルの裏には、こう書かれていた。
“視られている。君達も。”
◆
その夜、祠の裏にテントを張り、何とか野営の準備を整えた四人。
食料を分け合いながら、浜野が呟いた。
「なあ雨城。お前、あの新聞とゲームの事、何か知ってるんじゃないのか?」
「知らない。ただ……」
修は焚き火の炎を見つめながら、答える。
「……ゲームの中でしか存在しなかったはずの“羽生蛇村”が、実在したとしたら――」
ごう、と風が吹いた。誰もいない山中で、誰かの足音が聞こえた気がした。
結が立ち上がる。
「……今、誰か、いた?」
誰も、答えられなかった。
代わりに、静寂を割るようにまた鳴り響いた。
――ぽーーーーーっ……
それは、明らかに距離が近づいていた。
焚き火が、風もないのに、逆巻いた。
修が小さく呟く。
「これは……歓迎されてるんじゃなくて――」
“呼ばれてる”んだ。
次回予告
第101話『消えた集落と六体の地蔵(後編)』
鳴り響くサイレンと共に、集落の“もうひとつの顔”が姿を現す。
夜が深まるにつれ、彼らは視界ジャックを強制され、
逃げ場のない“儀式”が始まる――。
その村に、夜明けは来ない。
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