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光聖魔法

作者: 中川 篤



 仕事の最中、リネンを山積みにした台車を押していると自分が神になったような気がした。ふざけた妄想だと思う。心の中に人が仰山、そのたくさんいた人を一気に粛清。すがすがしい気分で明るい陽光を浴びていると視界はクリアで開けたような気がした。もっと目を開かなければ。前を見ろ。そんなようなことを作業日報に書きつけると相方は嫌な顔をして出ていった。

 人と、つながっているという気がする。していた。強固に。呪われている。監視し合い、びくびくしているという気がする。していた。

 それが嫌だった。どこまでも自己完結した世界だ。心の声に引きこもり、現実を見ようとしない自分。

 十分ほど休み、また仕事に戻った。再び膿のように妄想がわき出てくる。ああこれは障害なんだな、とぼくは思って諦めた。バカだから障害になるのか、バカだから障害を認めるのか、バカだから障害をかぶるのか?


 人の話をちゃんと聞かず。

 言葉の上から作り上げた世界をおっかぶせて。さも理解した気になって。


――「さっきまでさ、幻聴みたいなの聞こえてた」

 正直に言った。相方の姿には自分の影はなかった。

――「えっだいじょうふ?」

――「こんなこと言っていいかわからんけど、やっぱ障害者は障害を認めたほうが生きやすいのかな」


 これが人間か?

 どっちだって人間だ。

 ならどっちだっていいじゃないか。


 休憩を挟みながら怒りの葡萄を読む――口にも出せないようなことは書く値打ちもない――と、書かれている。

     *

 仕事が終わる。仕事が終わった。仕事の間には不思議なことが山ほど起こる。そんな基本的なことも忘れていた。あとにはぼんやりとしたイメージしか残らない。帰途の車内で今日のことを書こうと思い、だから今日はこんな日だったのかと腑に落ちた気分だった。

 窓から前を見ると、青空が広かった。運転席と後部座席に二人。そして自分。

 あとにはだれもいない。空だ。


 もう戻る気にもならない。


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