え、みかん?
目を開けると、りんごはぐちゃぐちゃになって血のように果汁が飛び散っていた。潰れたのだ。きっとこのりんごは俺が潰したんだ。防衛本能か、気づいたときには手が動いていた。こんなことしたことないはずなのに、人間を殴ってぐちゃぐちゃにしたかのような感覚。容易に想像できてしまう光景。「あぁ、気持ち悪い。これはりんごだ。これはりんごだ。大丈夫。俺は悪くない。なにもかも悪くない。」自分を励ます。そうしないと今すぐに罪悪感で俺自身も押しつぶされてしまいそうだった。
俺はしばらく棒立ちしていたが、すぐに我に返ってりんごと反対の方向に歩き出した。もう絶対に思い出したくない。もう忘れてしまおう。少し離れてから辺りを見渡すと、部屋の角にでかいペットボトルがあった。なんでこんなに何もかもでかいんだろうか。そう思いながらペットボトルの中にある水を眺めてみる。「え?!」水に映っているのは俺じゃなく、みかんだった。どういうことだ?俺から見たら人間の体なのに、?これは夢か?夢なのか?そうじゃないと説明できないだろう。でも、さっきの妙にリアルな感覚を俺はまだ忘れることができていない。忘れられない。これが夢なら何であんなにリアルなんだ。何でこの感覚は自分の手にいつまでも住み着いているんだ。何度疑問を投げかけても誰も答えてくれやしない。心の奥底ではわかっている。これは夢なんかじゃない。現実なんだ。
どこからか声が聞こえた。時間が経つのが早過ぎて、俺の心が追いつかない。でも行動しなければならないのだろう。ここから抜け出すためには。でもよく考えてみればこの声の正体が分かったとて、俺はみかんなんだ。意思疎通は叶わないだろう。そう思いながらも声が聞こえる方に歩いていった。そのうち長い穴を見つけた。細長い長方形のような形をしている。どうやらこの声はこの穴の中からしているらしい。だが、この穴を降りるには高すぎる。すぐ下に段差のようなものが見えるが、俺は今みかんなんだ。段差に乗れても転がってさらに深く落ちてしまうだろう。ふと思いついた。この穴にバカでかいペットボトルを落とすのはどうだろう。うまい具合に段差に引っ掛ければ、ペットボトルを転がって降りれるのではないだろうか?うまくできるかは分からないが仕方ない。他に方法なんてないからな。よし、名付けて「みかんコロコロ大作戦」決行だ!