第三話 「近衛魔導師 リキウス」
ヒミロスが囚われる少し前に話は戻ります。
王を守るべく、近衛剣士や近衛魔導師達は応戦します。しかし、王は軍事よりも民のために国力のほとんどを費やしたため、剣士や魔導師の装備は粗末なものでした。その反面反乱軍は他国から援助を受けており、強力な装備で近衛隊を圧倒しました。
ここでこの国の魔導師について解説しますと、北欧のクロノスの国と違い魔法使いは属性も含め世襲制となっており、王直属の軍隊に入隊しないといけません。そのため必ずしも才能または適性のあるものが魔法使いになれるわけではないため、軍はどんどん弱体化していきました。
近衛魔導師の中にリキウスという若者がいました。リキウスは魔法のパワーは絶大なのですが、不器用なため加減をコントロールすることが出来ませんでした。そんな彼の属性は「飛」。自分自身や他の者を文字通り飛ばすことが出来ます。敵を飛ばすのは得意でしたが、自分や味方を飛ばすことは苦手でした。加減がきかないためどこに飛んでいくかわからないからです。
しかしながら飛ばす相手は反乱軍。まさに「ちぎっては投げ」の大活躍でした。
そんな彼の視界の片隅に無理やり連れ去られるヒミロスの姿が飛び込んできました。
リキウスはヒミロスに対し忠誠心以上の感情を秘かに抱いていました。
リキウスは連れ去られるヒミロスを見るや我を忘れヒミロスめがけて飛び立ちました。
けれどもリキウスは魔力をコントロール出来ません。全く違う方向に飛び立ち、何度も建物にぶつかりました。建物に激突、飛び立つ、建物に激突の繰り返しです。宮殿内の薬品庫、厨房、鶏小屋にも突っ込みました。
反乱軍は最初、リキウスの行動の意味が分からず唖然としましたが、何度も建物にぶつかる姿を見て戦うことを忘れて笑い転げていました。
周りの建物に十回以上ぶつかったころ、ようやくヒミロスが連れ去られた方向に進路をとることが出来ました。
それを見た反乱軍もようやくリキウスの狙いに気付き、大量の火矢を放ちました。そのうちの一発がリキウスに命中し、リキウスは火だるまになりながら、猛スピードで建物に激突しました。あまりの衝撃に建物の壁は壊れ、巻きあがった粉塵でリキウスの姿は見えなくなりました。