第十話 「ヒミロスの幸運」
数時間後、強い衝撃とともにヒミロスと子供達は目覚めました。
自分を拘束していた手枷と首枷も外れています。拘束されていた手と首に多少痛みはあるもののほとんど無傷です。
子供達も無傷ですし、鉄格子も壁も壊れて瓦礫になっています。
見渡すと辺りは広い草原で、南には森、東と北の崖の向こうには海が見えます。西側のすぐそばには茂みがありました。
数時間前まで時間を戻しましょう。リキウスの強大な魔力で塔の最上階は無人島を飛び越し、海の向こうの大陸をもの凄い速さで縦断し、大陸の果てでようやく下降し、不時着のような形で草原に着地しました。
ヒミロス達が無事だったのはいくつかの幸運が重なったからです。
まず、凄い速さで北に向かって飛んでいましたので、室温はかなり低いはずです。そのうえヒミロスは全裸に近い格好ですし、子供達も暖かい国で生活していたので薄衣です。それなのに凍死しなかったのは、子供達に関して言えば牢にぎゅうぎゅうに詰められていたので、お互いの体温で暖め合えていたこと。ヒミロスに関しては看守達の死体がまだ燃え続けていたので焚き火代わりになっていたこと。さらにヒミロスを痛め付けるために鉄棒を熱していた暖炉が消えてなかったことも幸運の一つです。
また着地の衝撃ですが、リキウスが墜落する間際に何度も放った魔法が範囲外でしたが時間差で少しずつ効いてきたおかげで緩やかにスピードダウンし、なめらかな放物線を描いて下降したこと。さらに着陸地点が広い草原だったことも幸いしました。長い距離をどこにもぶつからず滑走していき摩擦力だけで自然と止まったのでした。
着地して滑走していく際には、衝撃で最上階の壁は壊れ、看守達の死体も飛ばされましたが、ヒミロスを拘束していた手枷首枷、子供達をぎゅうぎゅうに閉じ込めていた牢がシートベルトの役割をしたため飛ばされずに済みました。
そういった幸運が重なりヒミロス達は奇跡的に無傷だったのです。
とはいえ、ヒミロスは全裸に近い状態ですし、住んでいた国よりも気温は低く凍えそうでした。何よりも誰か来たら大変です。
ふと、暖炉のあった辺りを見ると看守達が拷問のために鉄を熱したり溶かしたりする際に着るエプロンがありました。
ヒミロスの豊満な乳房や魅力的なお尻全てを隠すことはできませんが、無いよりはましです。ヒミロスは咄嗟にエプロンを身につけました。後にこれが世の男性の憧れとなった「裸エプロン」の起源という説がありますが、その話はまた別の機会にいたしましょう。
さて話を戻しますと、近くの町からヒミロス達が乗っている?「謎の飛行物体」を目撃した人や着陸時の轟音聞いた人達が南の森を抜け、墜落現場に押しかけました。
草原の滑走した箇所は黒く焦げ、未だに燃えているところもあります。
野次馬と化した人達は見たこともないこの現象に大騒ぎです。「神の降臨」と崇めて祈る者、「悪魔の来襲」と恐れおののく者、様々でしたが武器を手にした者もいました。
ヒミロス達はその騒ぎを聞きつけ、反乱軍の追っ手かと思いました。聞き慣れない言葉で何を騒いでいるかはわかりませんでしたが、遠目でも武器を持っているのはわかりました。急いでこの場を離れなくてはなりません。
逃げるよう皆に指示をした時、ラチカルという少年が下腹部を押さえうずくまっていました。理由を聞いても教えてくれません。(ラチカル少年がうずくまっていた理由は本編とは全く関係ないので省略します。また機会がありましたら)
ヒミロスは遠くには逃げられないと判断し、ラチカルを抱えて西にある茂みに皆で身を潜めることにしました。
茂みに入ると外からは見えませんが、すぐの場所に扉が付いた洞窟の入口がありました。ヒミロス達は追っ手がすぐそこまで迫っていると思い、恐る恐る洞窟の扉を開けました。
続く




