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【本編完結】『元五歳で魔法使いにはなれなくなった男だが、ヒヨコはまだ健在か?』  作者: 桜月りま
番外編『ハイエルフ王家の事情』

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デュリオの記憶:番外1

彼は昔を回想する。


「ちゃんと付いて来いよ?」

「はい! 兄様」

 可愛い弟が後ろに引っ付いてくる。年の離れた、精霊ハーフの腹違いの弟ウィアートル。それまで姉しかいなかった俺の、すぐ下。

 彼が喋って歩いて付いて来るようになったのは、俺はだいたい2000歳を過ぎた頃。灰色の髪と瞳が美しい少年は素直で、可愛かった。生粋のハイエルフにはない、精霊の妖艶な美しさ。その中に勤勉さと屈託のない笑顔で俺を慕っていつも後を付いてきた。

 我らハイエルフは長命故、妊娠率が低く、体格的に産道が狭く難産になりやすい。もともと体の弱かった生母ルツェーリア……姉クリュシュは小さめだったが、俺はそれより大きく育ったせいか難産となり、母子共に危なかったと聞く。

 その上、母が結婚のゴタゴタで呪いまでもらっていた事が発覚、しかし父王にも完全解呪が難しい状態だった。

 それでも安静に過ごせば何とか命を繋いで行ける。ただ基本的に常時体調がすぐれない母に、俺は甘える事は出来なかった。

 姉は俺を可愛がってくれたが、たった三歳しか違わない姉は母の代わりにはならなかった。

 それに当時も生粋のハイエルフの数は少ないとはいえ、今の一ダース程度よりは遥かに人数が多く、身の回りは姦計が渦巻いていた。

 俺は甘い言葉をかけて操ろうとする大人の逆手を取り、忠臣と謀臣を見分け、母の為にも賢く強くあるよう自分を律しなければならなかった。

 成果として政を担う席に、早く着任する事になった。

 そのおかげか仕事はこなせるが、剣術の師弟・子弟関係はあっても、親友と呼べる者は居らず、政治は別としてヒトの気持ちに疎いと言われるようになった。

 そんな俺に出来た、年離れた弟。彼は俺の後ろに居てくれた。

 ウィアの後は龍族と古代種の母から二人の妹が生まれたが、龍族の妹は超好戦的で剣の相手と言った仲、古代種の妹は俺を尊敬してはくれたが、恐れたような視線で見られるばかり。ウィアのような弟は居らず、当時は生涯の相棒になるのだとすら思っていた。

 そうして弟が付いて来る事で密かに心温めていた頃、母が急変し、命が危ぶまれた。

 その時、結婚当初より専属の看護官兼相談役として、ずっと母を支えていた伯母フィレンディレアは、その命を世界樹の力を流用する魔法で救おうとした。ただ世界樹を守るハイエルフがその力を個人に使うなど『禁忌』でしかない。

 おかげで母は一命をとりとめたが、それでも完全解呪に至らず。

 一方の伯母は禁忌を犯した者の容姿『ダークエルフ』となり、一万年を超える寿命を失った。更に禁忌の代償として魔力暴走の痛みに苦しみ、そのまま死にそうになった。父王は彼女を妃として迎え、契る事でその体を暴走し続ける魔力を循環させて伯母を救った。

 そうして新たな母となったフィレンディレアはダークエルフハーフの三男を生んだが、彼とは反りが完全に合わなかった。彼はその先『二の放蕩息子』と呼ばれるほど奔放に育ち、その天衣無縫ぶりから現在は行方不明扱いである。

 三男はともかく、母は完全解呪には至らなかったものの、静養しながらならば、再び安定した生活を送れるようになった。

 それから400年ほどして、久しぶりに母が懐妊し生まれたのが四の姫、ヴラスタリだった。母の体調を慮り、殿上医に管理されて生まれて来た彼女はとても健康だったが、本当に小さかった。

 それでも俺の大きな手指を怖がることなく、きゅっとマシュマロのような手で握ってきた時、心臓を掴まれたかと思う程の眩暈を覚えた。非常に、非常に、言葉に出来ない程に愛くるしかった。

 彼女は歩ける様になれば俺を兄と慕ってくれた。性格は真っ直ぐで純真。それ故に柔軟性は欠けるし、王族として大人びようとツンと澄ました行動も取る、ソコも俺には好ましかった。

 そんな彼女はちょっと成長して目を離したすきに、ハイエルフにかけられた呪い付きの病を消そうと無謀にも突っ込んでいって、森の英雄イルに救われた。それを契機に、彼の従者として飛び回るようになる。

 その後、腹違い同腹含めて六人ほど弟妹が出来たが、一番可愛いのはヴラスタリ、側に置く一番はウィアートルだった。

「英雄とはいえ、ヴィーに手を出すというのならば、容赦はせん」 

「大丈夫☆  トゥルバに手は出さないよ、『僕』は」

 いつだったか、英雄イルとはこんな会話もした。

 アイドルを追うかのような姿勢は確かにヴィーの方だった。仕事はこなして、奥ゆかしい性格から言い出す事もなく、本人的には隠しているようだったが。

 彼女が変化を見せた頃。これからもずっと俺の後ろに居て、支えてくれる事だろうと思っていたウィアートルの行動も変わった。

 休みの日、鍛錬や狩りに誘っても来なくなり、そっとエルフの森を単独で出て行くようになった。

 休暇の過ごし方を変えたのだとか、若気の至りだとか思っている間に、あっという間に父王に『放蕩息子』、民には『風の王子』と呼ばれるほど森に居つかなくなった。

 その頃にはウィアは俺を『リオ兄』と呼び、『様』を付ける事が無くなり、一度など勝手に人間と結婚までしていた。

 子は生さなかったし、彼女を居所に連れてくる事はなく、その女は瞬きの内にいつの間にか亡くなっていた。

 ウィアはそれでも笑っていたが、弟の心に傷をつけた……どうして命の長さが余りにも違う、そんな女を選んだのかと問えば、

「選んだんじゃないから。ただ俺には彼女が最愛だった。だから彼女の手を取ったんだよ。ねぇ? そんな顔しないで。俺……ちゃんと幸せだったから。あの頃も。ーー今も」

 どんな顔だと言うのか……わからないが、そう言って大人びた表情をしながら、透けた灰の目で遠くを見るのだ。

 ウィアはそうやって俺に付いてこなくなったが、ヴィーは徐々に森に居る時間が戻ってきた。彼女も考える所があったのか、イルの従者としての仕事を減らしていった。

 だいたい英雄イルは不老のスペルマスターではあったが、人族で不死ではない。それも異世界の者、気付けば近く1000年程はこの森に姿も見せていない。

 そうしてイルが姿を見せなくなった事で、ヴィーは再び完全に森に落ち着き、内政を手伝うような立場になった。居所を出てエルフの民草に触れる事は多かったが、公務以外で遠くへ行く事はなくなった。


 だが、だ。



 この度、妹が従者をしていた3000年前、知り合ったという人族の少年がウィアの手引きで現れ、あっという間に居所に住着きやがったのである。

 イルの『僕』は、の、意味が深すぎて反吐が出る。

 それにウィアは完全に心を掌握されたのか、幼い姿に絆されたのか、王命もあるとはいえベッタリと童の世話を焼いているのに腹が立つ。

 大切にしているハープや楽器を惜しげもなく触らせ、合わせて美声を響かせ歌っている。確かに童の腕は悪くないが、どこの世界に五歳で楽器が万能の奴隷上がりが居るのか。前世? だ? ……どう見積もってもおかしいだろう。

 それもヴィーは、自分で腕を切り落とすと言う暴挙に出ていた男のそれを再生させるという、天女の如き慈悲深い行動で己の体を退行させた。

 ヴィーの幼い姿は可愛い、そして貴重で尊い……が、怒っていいのか悲しめばいいのか、もう俺にはわからない。

「そそそ……それもヴィーのむ……っ……」

 言葉にするのも汚らわしい……人族の童が俺のヴィーに気軽に触れる。許すまじ……

 更に優しい俺の妹は名もまともにない、どこの馬の骨とも知れぬ五歳だかの子供に、自ら『名』を与えた。

 それはとても大きな慈悲に溢れていて、その端々に彼女の信じられない想いが滲み………………そんな……事は、ありえない。

 俺の可愛い妹はきっと騙されている……誰が何と言おうとそう思う。

 半端な奴なら叩きだしてやりたいが、冒険者の依頼としてとは言え、エルフを幾人も救ってくれた。更に政策上の絡みもあって、賓客以上の扱いとなった。

 彼は多くの前世を覚えており、なかなか悲惨な生き方だったようだが、それを苦にはしていない変わった人族の子供。

 いろんな異世界から集めた本が読めたり、魔法は少し変わっていたが不思議なバランスで操ったりする。

 ウィアからは体調が悪いと聞くのに、運動を欠かさない彼の相手をすれば、殺しても死なないだろうと言う程、元気だった。

 この所、鍛えてやっている双子の片割れゼアは、やればできる子なのに、やらない。片割れのエクラが関わったり、見学に来たりすると姿勢が違うが、基本的にダラリと訓練を受ける。

 しかし人族の童は嬉々として向かってくる。剣の型などは苦手のようだが、ちょっと触ってやるときちんと修正して来る。指導が楽しっ……などとは、露にも思っていない。いないが、ゼアに少し見習ってほしい。

 それにしても構おうとしていないのに、真横で下手な剣を振われれば嫌でも目に入るからつい声をかけてしまう。

 童は無口で愛想笑いもしないが、出来なかった事が出来ると見てくれとばかりに黒い大きな瞳を俺に向ける。手合わせをしてやろうと言えば、喜んで跳んで来て剣を振り回す幼児は、戦闘狂としか言いようがないスレスレで俺を狙う。

 だから、つい。

 つい足を出した。

 そうしたら大抵の者は体を引く。教育的指導だったのに、アイツはギリギリを超えて俺を狩らんと動く。硬い踵にミシリとイヤな反動がある。その後も叩きつけられたのに、変わらず向かってくるから気のせいかと思えば……盛大に血を吐いた…………

 脆過ぎだ。

 ドラゴンを単騎で叩いたというのは嘘なのか?

 童は魔法で防御していた筈なのに、これはオカシイと自室に連れて行き調べてみれば、そこにはなんと『呪い』が住んでいた。

 聖国の魔法研究神殿、所長の魂。

 変質して童の体に同化して呪いのようになっていた。魔力が吸収しやすい心臓近くに居座って、受肉化して力を蓄える気だった様子。

 だが異質故、防御の魔法がうまく掛からず。ピンポイントで俺の踵が踏み抜き、壁への衝撃で童のあばらが前後から挟む様に臓器だけではなく、ソレを突き刺し、捕らえていたという……何と言う偶然。

 ソレを取り出せば、トカゲのような不気味な姿。逃げようとしたその呪いを、童は赤刀で滅して見せたのだった。

お読み頂き感謝です。

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