22番目の記憶
「もう、もう、死んだって思ったんだからね!」
フラムドラゴンと対峙して、自分とドラゴンを囲った結界が壊れる寸前、彼の声を聴いた……辺りから、まともな記憶がない。そう言ったら怒られた。
ウィアートルが医者や薬を手配してくれて、竜官士まで呼びつけて治療に当たってくれたそうだ。体調は随分長く浮いたり沈んだりを繰り返したらしい。
それも目覚めるたった数時間前、急に脈が取れなくなり、慌てたとか、何とか。偶然か、効果か、貰っていた御守石が割れて、それから安定して……起きる寸前の事だけで情報過多だ。
半月ほどは確実に寝ていた、それがわかればまぁいいだろう。
でも言っておかなければと、口を開けば声がまともに出ない。それでも絞り出して礼を言う。
「かんしゃ、す、る」
「もう、何その言い方はっ! だいたいねぇっ……」
竜官士の方々がやっと繋いだ骨がバラバラになりますからと泣きながら止めたので、ウィアートルの拳骨は受けずに済んだ。でも長い説教と説明をして来るのは避けられず、それを聞きながら窓の外を見ればいい天気だった。
久しぶりに煙草の一服くらいしたいほどの青空。あの空にくゆる紫煙はさぞかしボンヤリ出来て気持ちがイイだろう。いや、今生で口にした事などサッパリないのだが。
「そ、いぇば。なんで、ドラゴンが、あそ、こに?」
「前聖国の置き土産……みたいだよ」
「クソ、だな、あのくに。で、なンで、グラージが、いた?」
「ああ、ソレね」
あの親ドラゴンは聖国が送り込んだらしい。
そして転移魔法使いグラジエントが乗っていたあの人攫い船。アレに乗っていた魔法使いは、彼が連れていた女性の奴隷魔法使い以外にもう一人いた。
雨の中でヘロヘロの攻撃魔法を放っていた奴だ。海に引き込まれ死んでしまった。あの魔法使いが特化していたのが『縮小』だった。
余談だがそいつは貴族なので、魔法使いの中では高位扱い。ただ魔力量が少なめで一日に三体くらいしか縮小は出来ないが、気に食わない者を瓶詰にして戦わせたり、脱がせては何体も集めて『お人形遊び』をしたりしていた。
そういう見せしめの拷問係を本人も好んでおり、気の弱いグラージも何度か餓死させられそうに……きっと転移と言う希少魔法を使えなければ危なかった。
ともかく聖国は彼が『縮小』した魔獣を爆弾としての使用できないかと考えた。それなら威力も強い『ドラゴン』をと、あの船でわざわざ別の大陸まで捕獲に行き、隣国でも大きい精霊国を狙って仕掛けたようだ。
だが計画を立てた『所長』が行方不明になり、計画は頓挫。その間に子ドラゴンが飛んできて精霊国の雪山に住み着き、冒険者が討伐にあたったわけだ。
そして仕掛けられたが忘れ去られた親ドラゴンの『爆弾』は、『縮小』をかけた本人死亡により、ジワジワと魔法の時間的解除で解けてしまった……
そのドラゴンが何処かに持ち込まれた事を、グラージは情報として知っていた。そして魔法陣を軸に動ける彼だから、縮小の魔法陣が消える瞬間を本能的に捕らえたそうだ。それが恩人と言ってくれる俺が向かうと言っていた場所だったので、もしやと来てくれたのだという。
「他に被害の報告はないのが幸いだったけど、各国警戒してて大変なんだよ」
俺はそう言えば、あの変態『所長』がドラゴンの中に残留思念として残っていたと途切れつつも何とか話せば、ウィアートルは頭を抱えた。
側に居た竜官士が、
「只人にドラゴンを操るのは難しいでしょう。話を聞く限りかなり融合してしまっているので、他に乗り移る事はないかと思いますが、精霊国に人を派遣して調査しておきます」
と、請け負ってくれた。声の周波を覚えていたので告げれば、ドラゴンに造詣が深い人達なので、わかる事もあった様子だ。
後は専門家や国が集まって考えてくれるだろう、そう思い、自分の身の回りを思う。
「だいたいティはそんな男とどこで知り合うんだよ……」
「そ、れより、みん、なに、礼を言いたいが……」
「まだ、動いちゃダメだからね!」
「こ、は、ドコ、だ?」
「知り合いのトコ。お礼とかよりまず、身体を治さないと。ほら……まだ熱、酷いんだから。パンの薬草粥を作ってくるから。薬、睡眠とって。よく休んで治さないとね」
「くるっく!」
「おまえも、あり、……と。もういいの、か」
「るっく」
いう事は聞くから、トイレだけは自力で行かせてくれと頼めば、寝ていた間は世話してあげたから、恥ずかしがらなくてもと言って、医師や竜官士にも生暖かく笑われた……
数日で何とかその権利を勝ち取って、その部屋から出られるようになった。何度か出入りしていると、この建物が孤児院である事を知った。
更に数日経てば、隣の部屋は院長室で優しそうなおばあちゃん先生がいて、いつしか何人かの子供が俺の使っている部屋に夕方遊びに来るようになった。エルフが殆どだから……エルフの森なのかも……っと、漠然と思った。
声がまともに出るようになった頃には竜官士が涙を流しながら、いつでも呼んでくださいーーっと、俺に別れを惜しみつつ帰国した。
医者もたまに来て薬を置いて行くだけになり、それでもウィアートルは日に一度は来て、俺を見舞いと称して見張っていた。
今日はタライ風呂に入れてもらった。
髪は結構焼けていたが、毎日梳いてくれて見れるくらいになっている。刈ろうか? と言ったが、止められた。
子供の坊主文化はないらしい。
オヤジたちは結構見る、力強い感じがして嫌いじゃない。でも俺の場合、頭の耳も目立ってしまうからやったら強くは見えなさそうだ……少し長い方がイイ。余計にナメられそうな容貌が目に浮かび、想像を止めた。
とりあえず散歩にでも行きたいが……窓の外を見て、ウィアートルを見ればフルフルと頭を振った。
「信用、なんてないから……そんな顔しても駄目っ」
「どんな顔だ?」
「そぉーのぉーかぁーおぅーっ。悪気が無い時のティの顔が一番悪いぃ」
「えええぇ?」
「ずっとドコかに出て行こうって画策してるでしょ? まだ体調もよくないのに。いつに間にかマント着て、荷物もって……」
「習性だ」
奴隷にオシャレはないし、寝間着なんか普通に着た事もない。いつでも飛び出せるように、昼間の格好でいるのはいつの世界でも同じだ。
夜、脱いでいても、できるだけすぐに動けるように身近に置いている。扉やその回り、出来れば建物とか、位置とか、知らないと落ち着かない。出来ればこの建物の外回りを見に……
「どんな習性っ! ね、ティ? イイって言う前に勝手に出て行ったら、本気で国際手配かけるからね? 俺の情報網、舐めないでね?」
ニッコリ、静かに笑われる。彼がただのいいヒトではないくらいはわかっている。何だかとても顔が広いのだ。師匠とかサフィールの母殿とかは茶飲み友達で、竜神国でも何となく王も知っている様子だったし……
「ティ? 君はーーもうエンツィアの後ろ盾だけで隠せないんだよ?」
ん? 何か隠すような事はあっただろうか……ぱちりと瞬きして、首を傾げるしかない。
「そう、な、の……か???」
「ぜんぜん無自覚なの? え? まじで……もうっヤダっ……本気でわかってない……」
ふーーっと息を吐いて、ベッドの側に椅子を置いてウィアートルは腰掛けた。
「剣術大会での統一戦優勝。あれだけでも異常だったし。それでも毎年あんな感じで、数年にかけて、年に一度くらい話題にのぼるくらいなら別におかしくもなかった……かもしれないよ……」
膝に肘を付き、手を組んだ上に顎を乗せ、睨み上げるように灰色の目がこちらを見る。変幻していてもエルフと精霊のイイトコどりとシーが称した美しい顔が、今は素だ。美術品のような麗しさと気品。特徴的なエルフ耳。
だいぶマシになっては来たがボロボロで、普通すぎる自分には本来縁のない人種だなぁ……などと考えていたら、『聞いてる?』っと強めの口調で言われたので、コクリと頷いておく。
「はあああああ……本当に…………ドラゴンディザスター、スレイヤーまでダブルで称号とかないから。何匹、倒す気なの? 記録でも樹立するの? おかげで竜神国は水面下ではあるけど騒いでるし、精霊国でも、竜神国でも国賓扱いで連れて来いって言われてるし……聖国にも……関係あるでしょ? エルフの国だって行方不明者やその誘拐方法を明かした者ってバレてて……こぞって、皆、会いたがっているんだよ? あ、竜宮国もね。俺、いつの間にか窓口扱いだし……」
「……ほ、ぅ?」
少し間を開けてから、
「ラスタに……それは…………ヴラスタリ・トゥルバに謁見を求めてもおかしくはない立場? か?」
「は? はぁーー? それが目的なワケ‼」
「いや………………まぁ……奴隷はないと思ったから、魔法使いにはなっておこうかと思ったな……師匠が二年のトコ半年で教えてくれるって言うし? 後は依頼とか、成り行きとか? 剣術大会はちょこっと動揺して、剣が噛み合わずに相手のロングソードが切れただけで。ドラゴンは倒したら目立つとは……聞いていたか、な? 皆で一丸となって倒そうって張り切って行ったのに、遭難して、単騎でも行かないとだなぁと……冒険者のメンツの問題で行っただけ……そんでラス……ヴラスタリはとても優しいし、博愛主義っぽかったし、更に同族が攫われているの放って置けないタチだろうから、救ったら……喜びそうとは思ったケド……それなら一人でも多い方がいいし……あ、キャンディが押し込められた所にドラゴンが居るとか思わなかったぞ。流石に。まぁ、そんな感じで………………」
「いや……『まぁ、そんな感じで……』……じゃないよっ! 珍しく長台詞喋ったと思ったら、どういう事だよっ! 君の異様さに気付く者多数だよ! カモフラージュなんか今更無理だよっ! どうするんだよっ」
ちょっと口マネが美味いのは置いとくとして、これは話が長くなりそうだ……そろりとベッドから降り、部屋をそっと出て行こうとする。
「ねぇ、目の前からそんな簡単に出て行こうってどういう行動? どういう感情? どういう様子? ねぇ?」
「いや、トイレに……」
「トイレ行くのに荷物は要らないよね?」
手を差し出され、そっと荷物を渡す。それでもまだ出せと言う顔をするので、首を傾げる。
「箱、出して」
ラスタにあげる予定の緑琥珀の入った箱の事だ。取ったりは……
「しないから! でもトイレには必要ないよね?」
人質ならぬモノ質…………まぁ信用しているし、本当にいいヒトなのだ。ちょっと興奮していらっしゃるだけで……きっと俺が悪い。たぶん。だから少し時間を置いた方がイイかなと思っただけだ。素直に渡して、まだ痛む肺を撫でつつ、そろりと廊下を歩いて行く。
お昼を過ぎて、小さい子はお昼寝、大きい子は内職や勉強の時間……静かな時間が建物に流れている。古い建物だが、丁寧に使っているのがわかる、イイ建物だ。
夕方には小さいのが俺の部屋に駆け込んで、この中庭にはボールで遊ぶ子供達の声が溢れて賑やかになる。
トイレを済ませて、井戸から水を汲み上げる。紐を引くのではなく、片手で投げ上げるように紐を掴み、水を零さず上げて行くのももう慣れた作業だ。
魔法で出すと力を絞ってもたくさん出過ぎて水害になる。汲み上げは大変だけれど洗ったって気分になるので、嫌いじゃない。
「まだ冷たいな」
それでも真冬ではなくなってきた。
そろそろ広葉樹に柔らかな萌黄が見え、新緑の緑が美しい季節になる。それは美しいラスタの瞳を思い起こす色だ。彼女が歩けば金が美しい髪は、ひよこのように空気を孕んでふわりと可愛らしく揺れ、肌は薄紅を刷いた健康的な白だった。
いい香りに誘われて庭に出れば、梅のような花と岩清水が流れていて、どこか懐かしい気持ちで眺めて、その側にあった水面に落ちた白い花を招いて掬う。
keep your promise.
これが本当に梅の花かわからないが、『約束を守る』と言う花言葉があったなぁ……っと、ふと思い出した。どこかで誰かから聞いたのだろうか、思い出せない。英語だから地球での記憶と思うが。
花芯の金がラスタのクルリとした睫毛のようで綺麗だなぁと思いつつ、その花を左手に乗せて。ウィアートルに見せてあげようと部屋へ戻りかけた時、虹色の風が吹いた。その時、背後から誰かが来て、
「そのヒトの子、どこからウィア兄上が連れて来たのか、ご存知ですか?」
その声に頭の耳がピクッと今までにない程、逆立った。ドラゴンに吠えられた時の不快感じゃない、甘やかで優しくて、焦がれたヒトの声に。肺や体がまだ痛むの何か忘れて、反射で背筋が伸びる。
「くるぽ?」
頭の上に乗って一緒に来ていたドリーシャが飛び立って行くのを感じながら、後ろを振り返れば『300歳の乙女』が後ろにいた。
いや本当に地球で死に別れて……俺は何度も生まれて死んだかわからない年月だが……彼女にとって本当にどのくらい時が経ったのだろうか。
昔見た時も青と緑のグラデーションが美しい瞳だったが、今は新芽の綺麗な緑色に変わっていた。前にも増してはっきりした新緑色は心が引き込まれるようだった。
不老……緩やかにしか変化しないハイエルフの成長が目に見えるほどとは、彼女にとってどのくらいの時間が必要なのか。
顔立ちは変わっていないが、とてもとても……綺麗だった。記憶で美化されているのかもと思っていたが、実物の方が何倍も輝いて見えた。
確かに地球でエルフは創作の生き物なので、イルが『その造形はこの世界では〈幻想〉の域を出ないから、ちゃんと変化してから行くんだよ?』と言って、彼女を男に変幻させていた。
それでも通常見ていた男性ラスタでも眉目秀麗なのは変わらず美しかったし、何度か変幻を解いた女性の姿も見て知っていた。
けど、その時の美しさは『若かった』のだと、確かにわかる。今のラスタは捥いで口に頬張りたくなるくらい、女性を感じさせた。
それでも……カワイイひよこだなぁっと思うのは、昔より少し濃くなったヒヨコのような金髪色のせいだろうか?
いや、違う、内面がとても綺麗で純粋なんだろうなと、見るだけでわかってしまうからだ。
自分が底辺なだけに。
俺が回顧しながら今の彼女と昔の記憶を比べている間に、ラスタの隣にいたおばあちゃん先生が返事をしていた。
「いいえ、詳しくは仰らないのよ……でも精霊国で騒動があったようですし、隻腕ですから。今、噂の方かとは、私でも。子供達には騒がないように言い含めてあります。そう言えば竜官士様方が敬っておられたので、竜巫でもあるかもしれないとも思ったのですよ。たくさんのドラゴンの血を全身に浴びていて、毒虫の煙も吸って、全身骨折していたとか……もうだいぶ良いようですが」
「まぁ……年の頃は四つか五つになるかくらいだと聞きました。なぜ……そんな幼い子がそんな痛ましい事故に巻き込まれ……あら?」
ラスタは俺に気付き、おばあちゃん先生との会話を途切れさせた。彼女がことん、と、首をかしげる。その動きにさらさらと流れる金髪に光がさす。
その小さな行動だけでとても可愛く思えて、何か言いたくて、でも言葉が出てこない。きれい、とか、かわいいとか、月並みながらも思った単語が口から出てこないまま。
ラスタは不思議そうに俺を見つつ、ゆっくり歩き寄り、すっとしゃがんで目が合った瞬間、俺はテンパった。
何か、言わなければ、と、焦った。
予行演習ならやる暇はあった。だけど、何一つまともな台詞は思い付かないまま。
やはり何を言っていいかわからず、焦った余りするりと……本当にするりと言葉が漏れてしまう。
「3000年経ってもやっぱ、貧乳? いや微乳にはなったか?」
「……は?」
その顔を見た途端、あ、すごく綺麗になったが、中身はやっぱり乙女のまま変わっていないと思った。免疫のない、純粋培養の乙女。側にどれだけ汚らしいモノがあっても、染まらないだけの気高さ。故に垣間見せる素の可愛さ。だからつい嗤いながら言ってしまう。
「元五歳で魔法使いにはなれなくなった男だが、ヒヨコはまだ健在か?」
「誰がヒヨコで処女ですか!」
処女……そこまでは……言及していない、が。
ラスタの手が俺の頬を叩きかけて……あ? 小さい子だった、と焦ったようにして。何を思ったか、俺の唇当たりの頬肉を掴んでのばした……俺は餅じゃない。
「なんてコトをこのオクチは言うのですか! コドモでも思っていても言っていい事と悪い事が……」
「にゃぁ、しゃんぜんねんちゃったか? やっぱおみゃかわんにゃねー」
(なぁ3000年経ったか? やっぱり、お前はかわらないな)
「3000年?」
「そえに、しょじょじゃにゃい。ちょっとくっかし、にしぇしょじょじゃし」
(それに処女じゃない。ちょっと喰ったし、偽処女だし)
「何をっ……!」
ちょっと手が緩んだので逃げて、自分の頬や口回りを左手でさすさすして、痛みを和らげる。下手なドラゴンの攻撃より、痛い。おかげで混乱は解けたと思う。
その間も彼女は顔を赤くしながら、振り返る俺をマジマジと見た。そして無意識だろう、手をのばして俺の頬や髪、その耳に触れる。丁寧で、優しくて、虹色の風が運んできてくれた通りの懐かしい香りがした。
「へぁ? うそ、うそ? え? ええええっ?」
彼女の叫び声で近くの作業場から子供が覗き始めた。無邪気に走ってこっちに寄って来そうだったのを牽制するのもあって、俺はラスタの頬にキスをした。いや、口にしたかったが、嫌がられると浮上できない。挨拶程度なら許されるだろうし、熟れた頬を食べてみたくて。ついでに舐めてみたが柔らかだったが、甘くはなかった。
「久しぶり、だ、ラスタ」
「にゃ、に、にゃのっ!」
「……あれぇ?」
背後からワンテンポ置いて、ウィアートルが声をかけてきた。おばあちゃん先生は耳をぴくぴくしながら『まぁっ! まぁ……四の姫様に小さい春ですか……』と呟いている。
「はははははぅっ?」
周りがざわつく中、焦った彼女は立ち上がり、俺の腕を引こうとした。マントを纏っていたので見えなかったのだろう。あるべきトコにない右腕を。
「え?」
「こっちだ」
目を見開いているので、マントの下から左手を出せば、右手が無いのも見えたのか、余計に目が泳ぐラスタ。
困らせる気はなかったのだが、左手に持っていた梅に似た花を、中途半端に浮いていた彼女の手の平にぽつんと落とす。
「綺麗だ、ラスタと同じくらい」
「にゃ! に、何を、アナタはそんにゃ……」
頬を引っ張っているわけでもないのに、舌を噛んで変な言葉遣いになっているのが恥ずかしいのか、更に頬が赤くなったなっと思った瞬間、左手を握られて、足元に魔法陣が浮かび、目の前の光景が変わる。
「ちょ……一緒に行くっ」
ウィアートルの声が微かに聞こえ、孤児院ではなく、どこか……に、転移した。
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