復讐
自分らしくと大人は言う。
でも、それは大人の望む、自分なんだろう。
自分をさ、自分にするんだよって。
だったらさ、自分って、一体なんだろう?
大人の認める自分てさ、本当の自分なのかな?
周りに合わせるのって、本当の自分なのかな?
俺には、分からない。
でも、俺にはそれしか出来ないから。
それが、自分だから。
自分を殺して、殺して、殺して出来た自分が、本当の自分なんだろう。
だから学生時代、教師やみんなから嫌われていた奴をいびり、学校に来れなくなるぐらいに追い詰めてやった。
そういうのはやめろって教師や大人は言うけど、それってもっとうまくやれってそういうことだよね。
だって、本気で言っていないって分かるから。
だから俺は、もっとうまくやった。
もっともっと、追い詰めてやった。
そうしたら。
そいつは死んだ。
俺は喜んだ。
みんな、喜んだから。
ざまあみろって、はしゃいでいた奴もいた。
教師も特に何も言わなかった。
だって、俺は大人の言う通りにしたから。
だいたいさ、あいつは学校に要らない奴だから。
本当は教師だって、喜んでいるんだ。
死んで清々したって。
教師だって、俺たちの前であいつの悪口を言っていた。
あいつが居ると、授業が進まないってさ。
あいつ、生意気だって。
あいつが休んでいた時、教師は笑いながらそう話していた。
俺もそう思ったし。
だから俺のやったことは、学校の為でもあるんだ。
それなのに、俺や俺の家族が攻撃された。
大人の言う通りにしたのに。
みんな、喜んでいたのに。
もっとやれって、はやし立てていたのに。
あいつらは、俺を裏切った。
だから洗いざらいネットに晒したけど、誰も俺の話をまともに聞く奴はいなかった。
あいつが泣いていると、皆が笑っていたのに。
一緒に殴ったり、蹴ったりしたのに。
明日は、もっといじめてやろうって、そう言っていたのに。
あいつを土下座させて、みんなで頭を踏みつけてやったのに。
バケツの水をかけてやったのに。
毎日が楽しくて、仕方がないって喜んでいたのに。
一日一回、あいつを殴らないと、気分が落ち込むって、そう言っていたのに。
いつになったら、あいつは死んでくれるかなって、話していたのに。
ああ、今日も学校に来たよと、笑っていたのに。
いっそさ、あいつを殺しちゃおうかって、みんなで殺し方を相談したのに。
自殺に見せかけて、屋上から落そうか、いや、川に落とそうかと。
みんなすごく、生き生きとしていた。
それなのに。
あいつらは、裏切った。
俺を裏切った。
俺に言われたから。
仕方がなく、いじめたんだ。
本当は、いじめなんて嫌だったんだって。
俺が怖かったから。
だから嫌々、やったんだって。
あいつを殴り、蹴り、便器に顔を突っ込ませ、頭を踏みつけ、そしてカネを出させた。
恥ずかしい姿を、ネットに晒してやった。
鼻血を出して、泣いている姿を。
下半身を晒している姿を。
笑いながら、動画撮影していたのに。
みんな、嬉々としてやっていたのに。
あいつから奪ったカネで、ゲーセンやカラオケで遊んだのに。
毎日が楽しいって、そう言っていたのに。
俺のお陰だって、感謝していたのに。
イイネを貰ったのに。
みんな、喜んでいたのにさ。
それなのに。
俺がすべての元凶だって。
俺さえ居なければ、俺がこの世に存在しなければ、あいつはこんなことにはならなかったって、泣きながら話したんだってさ。
あいつが可哀そうだって、どの口が言うんだろう?
泣けばいいってもんじゃないと、あいつに何度も平手打ちをした女は、可哀そう、可哀そうって泣いていやがる。
死ななくても良かったのにって、俺を見る。
まるで、自分たちは悪くない、悪いのはお前だと。
俺は頭にきた。
だから俺は、あいつらを殴った。
裏切りは卑怯だと、身体に教えてやるために。
お前らは間違っている。
あいつが教師に密告したって、怒っていたじゃないか?
あいつは、クラスを裏切った。
裏切り者は、生きている資格は無いって。
だって、それが正しいって、俺は教わったから。
だから、あいつを死ぬまで追い詰めたんだ。
努力の甲斐あって、やっと死んでくれたのにさ。
それなのに。
どうして?
どうして、
どうして、
どうして、俺を怖がる。
みんな、俺に怯えていた。
俺から離れた。
冷たい目で、俺を見た。
いや、もう目をそらした。
俺を一人にした。
だから、俺は殴った。
いっそ、殺してやろうと思った。
裏切り者は、死んでもいいんだ。
お前らがそう言ったんだ。
屋上から落とすか、川に落とすか、そう言っていたじゃないか?
そこへ、警察が来た。
俺は嬉しかった。
やっと、俺の気持ちが分かる人が来たと、そう思ったから。
裏切り者は逮捕される。
あいつらは最低な裏切り者だけど、庇ってやろうと思った。
だって、仲間だから。
クラスメイトだから。
でも、違った。
警察は、俺の味方だと思ったのに。
でも、違った。
違った。
違ったんだ。
俺は捕まった。
捕まってしまった。
俺は悪くないのに。
いくら説明しても、分かってくれなかった。
俺だけが、悪者にされた。
仲間は俺を捨てた。
親までもが、俺を捨てた。
俺は、孤独だった。
そんな俺に親切にしてくれる人に、俺を仲間にしてくれるチームに入った。
そこは楽しくて、カネも貰えた。
夜の街で遊べた。
人を殴っても、褒めてくれる。
オンナにもモテた。
すごいって、尊敬された。
カッコいいって、言ってくれた。
だから俺は、もっともっと、殴ったり蹴ったりする。
泣きながら謝っても、俺は許さなかった。
生意気な奴には、思い知らせないといけないから。
教育的指導?みたいな奴だ。
それに殴れば殴るほど、俺は満たされた。
すごく、気分がいい。
すっきりする。
人を殴ると本当に楽しいし、おまけにカネにもなるから。
仲間から褒められるし、オンナや後輩から慕われるから。
そうなんだ。
やっと、俺のことを分かる人たちに出会えたんだ。
だからここは、俺にとっての居場所だ。
大事な居場所だ。
俺の楽園だ。
俺は全力で守る。
その為に俺は、仲間と共にチームを守る。
チームにちょっかい出す奴は、容赦はしない。
だって、それが楽園を守るためになるんだから。
だからそんな仲間を大事にしない奴は、生きている資格はない。
正義じゃないからだ。
仲間を裏切る、卑怯な奴だからだ。
裏切りは許さない。
裏切り者は、死んで当然だ。
俺は、今日、人を殺す。
兄貴からナイフを貰い、頑張れって励まされた。
俺は嬉しかった。
俺の楽園を守るために、戦えることを。
でも、どうしてか分からないけど。
何でか、分からないけど。
あいつの顔を思い出した。
鼻血を出しながら、泣いているあいつの顔を思い出した。
俺を見て、笑ったあいつの顔を、俺は殴った。
それでも、
それでも、
それでもあいつは、笑っていた。