この日、勇者パーティーは。
――拝啓。
魔界外におきましても魔族との熾烈な戦闘は絶えない折、人間族、小人族、エルフ族、獣人族の皆様はいかがお過ごしでしょうか。
「貴様が最後のようだな。マシュー・アンデルセン……」
境目にある鉄壁要塞、ヴァルヴァラ要塞が破られたと聞きました。
父上、母上は変わりなく過ごしておられますか?
「平民上がりの身にしては我の攻撃をよく耐え忍んだ……」
これまでの不遜な態度、お許しください。
それと愚鈍な王よ、この惨禍の中くだらない小競り合いで人族同士争うのはやめ、今こそ力を合わせるべきです。
「だがこれで最後、もはや慈悲などない――」
なぜなら、僕たち勇者パーティーは……。
「――――死ぬが良い」
この日、全滅しました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「――――であるからして、君たち魔剣士学園の生徒達は……」
「ふぁぁ…………。」相変わらず、学園長の演説には欠伸が出る。
集会が始まって数十分、未だに言っていることの真意が掴めない。なぜこんなにも言い方が回りくどいのだろう、要点をまとめて簡潔に話してほしいんだけど。
「あーッ! またマシューが欠伸をしてる!」
学園長の声以外聞こえない、静かな校庭の中で一人の少女の声が響き渡る。
声の主は僕の横にいる奴。
「シーッ!! 声がでかいぞ、ミリカ!」
その少女、ミリカ・クライドは僕と同じ魔剣士学園の生徒だ。
ちょっと抜けてる、というか馬鹿の獣人娘だ。
今回だって静まった校庭の中、バカでかい声を上げて皆の注目を集めている。
「ご、ごめん」とミリカが言う。そんなに耳と尻尾を下げて反省したフリをしていても無駄だぞ、後でこっぴどくお仕置きだ。
「おい、そこの二人! 集会中に何を喋っている!」
と監督生の威厳に満ちた声が静まり返った校庭に響き渡る。ほら、監督生が出しゃばってきた……。
僕とミリカは慌てて正面を向き、集会に集中するフリをする。
幸い、なんとか誤魔化せたようで、学園長は「ゴホン」と一息ついてまた話し始めた。
「さあ、皆さん。この学園では、優れた魔剣士を育成するため、日々の訓練が欠かせません。しかし、それだけではなく、心の在り方も重要です。互いに協力し、助け合う心を持つこと。それが真の魔剣士となるための道です」
学園長の言葉に、僕は心の中で溜息をついた。確かにその通りなんだけど、もう少し短くまとめられないものか。
「それでは、本日の集会はこれで終了です。皆さん、引き続き訓練に励んでください。」
やっと終わったかと思ったら、ミリカがまたもや大声で叫んだ。
「やったー! 終わったぞ、マシュー!」
「おい、静かにしろって。また怒られるぞ!」
僕はミリカの耳を引っ張りながら、校庭を後にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ここ、ダルシア魔剣士学園は魔物達の脅威に対抗すべく、人間族、小人族、エルフ族、獣人族の四種族が互いにお金を出し合って設立した魔法剣士育成のための教育機関だ。
そんな学園での僕の成績は中の中、ただの一般生徒。
だが僕には他の生徒とは違うところがあった、それは――。
「――――聞いてくれ、ミリカ。僕には前世の記憶があるんだ」
僕とミリカは午前の訓練を終え、食堂で食を貪っている最中だった。
「えー、まふぁしょにょはなひ?」(訳:えー、またその話?)
ミリカよ、喋るときは口の中にある唐揚げをゴックンしようね。
僕の心の声が伝わったのか、ミリカは「ゴクン」と口の中にある唐揚げを飲み込み、真剣な眼差しで僕を見る。
「ねえ、マシュー。そろそろ病院行こう?」
グッ、いつもは馬鹿な発言しかしないミリカにまともなことを言われる日が来るとは……。
「いや、本当なんだって! 前世で僕は勇者パーティーの一員だったんだよ!」
「はいはい、マシュー・アンデルセンでしょ? 大体、マシューの名前はアンデルセンじゃなくて、アロンダイトね。マシューが勇者パーティーの一員だとしたら、私は前世で王女様だったのかな〜?」
こいつ……、全く僕の話を信じていない。
いつも街でボッタクられてる癖に、僕の話になると途端にまともになるのはなんなんだ。
それにミリカが王女様? あんな大声で叫びだす王女様が居てたまるかよ。
「いや、それはないだろう。王女様があんなに大声で叫ぶわけないし、尻尾も生えてないからな」
「えー、じゃあ私は前世で何だったの?」
「うーん、考えてみると……多分、大きな声で鳴く動物? 例えばライオンとか?」
「えっ、かっこいい! じゃあ私、ライオンの王女様だったんだ!」
「おい、話を勝手に盛りすぎだろ……」
こいつは本当に馬鹿だな。
ミリカとの会話はいつもどこかずれている。でも、それがまた楽しい。
ただ、僕の前世の記憶とは何なのだろう? 魔王なんて存在した歴史はないし、マシュー・アンデルセンという人物も調べる限りでは存在しない。
ミリカの言う通り、それは僕の妄想で空想上の人物なのだろうか?
でもヴァルヴァラ要塞は実際に在るものなんだよな、今は古代の遺跡となって朽ちてるけど……。
と、そんなとき、突然学園の非常ベルが鳴り響いた。
「また魔物の襲撃か……」
魔物の襲撃、最近はよくあることだ。
この街、ダルシアは魔物の森と密接しており、その森から魔物が流れてくることが多々ある。
そして、そんな魔物達をやっつけるのが僕たち、魔剣士学園の生徒ってワケ。
僕とミリカは横に携えた剣を手に取り、急いで食堂を後にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
僕達が現場に到着すると、そこには既に学園最強と名高い魔剣士、銀髪蒼眼で美少女エルフのシャルロット・エルグランデが立っていた。
彼女の周りには倒された魔物たちが無数に横たわっており、彼女自身はほとんど汗一つかいていない様子だった。
「す、すごーー!! やっぱりシャルロットさんは別格だあ!」とミリカが感嘆の声を上げる。
シャルロットは僕たちの方を振り返り、意味深な目を向けてきた。彼女の瞳には、何か訴えかけるような力がある。
「あなたたちも、もっと強くなりなさい」と彼女は静かに言い、その場を去っていった。
「うーん、シャルロットさん、かっこいいけど、いつも何考えてるんだろう?」とミリカがぽつりと呟く。
「確かにシャルロットさんは謎が多いよな、学園最強と名高いのにそれを全く誇示することはない。一部ではエルフの王族だなんて噂もあるくらいだ」
そんな彼女、シャルロットには学園内でファンクラブがある。
整った容姿と謎の多い人柄、そして極めつけにその圧倒的な実力、彼女が注目を集めるのは必然だった。
実は僕もファンクラブの一員なので、平静を装っているが、内心は感涙の雨である。
「まあ、なんというか。彼女に言われた通り、僕たちも強くならないとな!」
推しに直接激励の言葉をかけられてしまっては、頑張るしかなくなるだろう?
雲の上の存在と思っていたシャルロットさん……、そんな彼女の横で肩を並べる僕を想像すると、興奮で汗が止まらない。
顔に不敵な笑みを浮かべる僕、そんな僕を見てミリカは一言。
「うん、そうだね。あとマシュー、顔がゴブリンみたいになってるよ」
「うっせえ!」
そんなことを言いながら、僕たちは学園への帰路についた。また、他愛もない会話を繰り広げながら。
このときは後にとんでもない事が起きるなんて知らなかったんだ。
シャルロット・エルグランデ、彼女は――。
――――彼女は1週間後、学園から姿を消した。
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