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コンビニ

作者: R.H.E

_________ウィーーン_____________


いつものように自動ドアが開く。今でも同じだが、コンビニの中と外は全く違う世界のように感じられる。ファミレスのように「いらっしゃいませ」などと言われることはなく、特有の音楽が流れるだけ。自分には確かに目的があってきたはずなのに、思わず身構えてしまう。少したってから、母からおつかいを頼まれていたことを思い出した。家からの距離でスーパーより近かったためである。実際は、私から『もう3年生なんだから、おつかいに行きたい』と熱弁され、母の方が折れたのだろう。


メモをとるまでもなかったが、頼まれた物は牛乳、インスタントコーヒー。個人的にはコンビニで買うべき物ではないと思ったが、母が一生懸命考えて私に頼んでくれたのだ。しっかりおつかいを遂行しなければならない。ここのコンビニは左側にレジのあるコンビニだ。まず一番奥の棚から牛乳を取り(カゴは取っていない。マイバッグは持たされている)、酒やジュースの棚に沿って2列戻ってコーヒーを取る。とても簡単なことで、もう少し手応えのある仕事をしたかったのだが、しかたない。レジに行って精算をする。ここでひとつの問題が起きた。『お菓子を買うかどうか』問題だ。そのコンビニオリジナルの商品で、とてもおいしそうだった。母からは『おつりでほかのものを買ってもいい』とは言われていたが、正直迷ってしまう。おつりは残ってはいるのだが、お菓子を買ってしまうとほとんど残らない。自分から無理を言ってここにいるのだから、最後は褒めてもらいたかった。おつりのほとんどない財布を返されて、母は喜ぶだろうか。この場で私はどうすればいいのか。自分の欲望に従うか、我慢するか。その場でぐるぐる回って散々悩んだ結果、

私は(愚かにも)中途半端な、母の好きなお菓子を買うことに決めた。



「商品こちらで全てでよろしいでしょうか」

私はこのような場では緊張してまともに話せないので、うなずくことしかできなかった。自分としては真剣に考えて導き出した結果なのだが、万が一怒られてしまうと、もうおつかいができなくなってしまうだろう。そうだ、今からでも遅くはない、

「……ィントカード……ちですか」

一度商品を戻せばいいではないか。

「………ジ袋はご利用になられますか」

そうなのだ。一度戻してこよう。いや、でもだんだん混んできた。これでは戻せるかどうか...。

「お買い上げ、ありがとうございました。またのお越しを」


























家までの帰り道、私はそこまで遠くない距離をだらだらと歩いていた。わざとではない。なんとなく帰りづらいだけだ。これから家に帰り、母に買ってきたものを見せる想像をしてみる。__________母は一瞬驚いた表情を見せるが、すぐに笑顔に戻り、自分のためにお菓子を買ってくれた私を褒める__________

__________母は言った通りの商品を見て満足するが、ふと自分が頼んでいない余計なものを見つけ、激昂する__________

考えればキリがないし、全く答えが見えてこない。このままどこかへ逃げてしまおうか、などと考えてもみたが、そんなことができないことは自分でも分かっていた。ここで私はどう転んでもなるようになれと、ヤケになっていたように思う。考えることをやめ、家に帰ることにした。


「ただいま」

これで少しは良い結果になったわけではないと伝わるだろうか。

「おかえり。結構遅かったね~」

伝わっていないように感じられるが、きっと全て理解したうえでこの調子で迎えてくれたと思っている。私は意を決して、余計に買ったものについて説明した。母は

「そう。ありがとう」

と、素直に喜んでくれたようだった。しかし、残りのおつりを見ると、少し怪訝な表情を見せ、こう言った。

「お母さんのために買ってくれたのは嬉しいけど、自分が欲しいもん(もの)買えばよかったのに」

「……え?」

てっきり怒られると思った私だったが、そうでないことを理解するのに少し時間がかかった。

「今度やるときは自分の欲しいもん買うんやで」

私はその場の欲望だけでお菓子を買い、その結果お金が少なくなってしまっただけなのに、そういってくれたことがとても嬉しかった。

「…うん」

私は、目に溜まる涙がこぼれないように、小さく頷いた。

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