16.一日目・深夜 二人目の犠牲者
「……い、今のって……?」
こちらを向いたエレノアと視線を交わし、息をのむ。
助けを求める叫び声のように聞こえたが……見て見ぬふりはできないよな?
「……行ってみましょう」
「ええ……」
エレノアを後ろに庇いながら、悲鳴が聞こえた方面の右翼廊下へ、ゆっくりと進んでいった。
夜間モードで薄暗く落とされた照明が心もとない。数歩先の闇の中から殺人鬼が飛びだしてくる想像が脳裏にちらついてやまない。
やがて道の途中に、客室の扉が見えてきた。声のボリュームを抑えながら、隣の彼女に尋ねる。
「ここは、たしか夢人くんの部屋でしたよね?」
「ええ……呼び出しボタン、押してみましょうか……」
エレノアがそう答えて、扉の脇にあるパネルを操作した。
――反応がない。いないのか?
そう思った矢先、プッと音声が通じる音がして、震えたような声がスピーカーから流れでた。
『……な、なに……?』
「あ、夢人くん? 夜分にすみません。こちらから悲鳴のような声が聞こえたんだけど……変わったことはないですか?」
『ひ、悲鳴……? し、知らない、寝てたから……僕は大丈夫だけど……』
「そうですか、わかりました。では黒須さんの部屋のほうを見てきます」
通信を切って、廊下のさらに奥へと足を向ける。不気味な静けさの中、じりじりと練るように進むと、隣室の扉が見えてきた。
「この部屋は――誰も使用していないようですね」と、エレノアが言う。
夢人の隣の部屋は空き部屋になっていた。わかりやすいようドア横のパネルの電気も落とされている。念のためパネルをタッチしても、反応はなかった。
残るは、この廊下のさらに奥にある一室のみ。
「やはり、さっきの悲鳴の主は、黒須さんなのでしょうか……?」
と、エレノアが尋ねてきた。
「その可能性が高いですね……」
声の調子を落とし、こくりと頷くことしかできない。
船内図によれば、黒須の部屋より先は、行き止まりだ。
廊下は一直線。黒須さんが襲われたとするなら、犯人もまだそこにいるはずで――。
より警戒心を高め、奥へと歩みを進めた。
***
――黒須の部屋の前。
異常は明らかで、硬直せざるをえなかった。
シーツをかけられた状態で、うつ伏せに人が倒れている。白だったはずの布地は、部分的に赤く染まっていた。
布の端からはみ出して見えている体は、服装は黒ずくめで、がたいのいい胴体に長い手足。黒須でほぼ間違いないだろう。
「黒須さん! 大丈夫ですか……!?」
駆け寄って、ハッとする。
凶行をふるった犯人が近くにいるのでは……?
だが、不意打ちで襲ってくる気配はなかった。場は静まっているが、部屋の中に隠れているのだろうか?
黒須の部屋の扉は開いている。彼の体が敷居をまたいで倒れているから、センサーで扉が閉まらないのだ。
念のため、そっとシーツをめくると、たしかに黒須そのひとであった。
「だめだ、もう死んでる……」
後頭部を潰されている。完全にこと切れていて、生命反応はない。
廊下の床には引きずった血の痕……。血痕は不思議なことに廊下から部屋のほうへ向かい軌跡を描いていた。
状況を見るに、襲われたのは室内。被害者が部屋から逃げようと飛びだしたところで捕まってしまい、殴られ、昏倒させられた。返り血を防ぐためにシーツをかけられ、とどめを刺された……。
それから犯人は黒須の体を部屋の中に戻そうとして引きずったが、重かったために断念――という感じだろうか。
凶器は、部屋の入り口付近に転がっている、銀色の鏡台。血が付着しているから、ほぼ間違いない。これで後頭部を殴打されたのだろう。
さっと視界の横を影がよぎる。エレノアが果敢にも部屋の中に突入していったのだ。
「ちょっ、危険だから……!」
慌ててエレノアを追いかける。黒須の死体をまたぎ、部屋の中へ。
一見して、不審人物の姿はなかった。
手早く室内をあらためて、エレノアが言った。
「犯人はいないようです……シャワーブース、ベッドの下、クローゼットの中まで見ましたが」
「……」
どういうことなんだ。
悲鳴が聞こえて、すぐに一本道の廊下を進んできた。
だが、被害者の遺体はあれど、犯人の姿はない――。
(まさか……)
否定したかった「犯人の特殊能力がチートである可能性」が、急速に現実味を帯びてきていた。
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