14.一日目・深夜 探索
再び、自室へと戻ってきた。
なんだかんだで広い船内を行ったり来たり。満腹感もあり、ほどよい疲れが足に溜まっている。
ゲーム内時間は――ベッド備え付けの電子時計には、二十三時五分と表示されていた。
(さすがに少し眠気が出てきたな……少し仮眠をとっておくか?)
MMVRでは実際に生活しているのと同じくらいリアルな体験を目指していることから、夜になると眠いと感じるように設計されている。
ロール・プレイング・ゲームでもHP(ヒットポイント。通常、体力を意味する)という概念があるが、残り体力のコントロールは大事だ。ここで無理をして一晩中寝ずにいたりすると、翌日に激しい睡魔に襲われ、ろくに頭が働かない、という事態もありえるのだ。
普段の生活だったら、この時間ではまだアルコールを片手に深夜テレビをつけてダラダラしていることも多いのだが――。(または、抱えているソフト制作の納期が佳境のときは、会社のタコ部屋で五連徹なんてザラだ)
なんだか自分が健康的な青少年だったころに戻ったような気がして新鮮だなぁなんて思いも抱きつつ……。
実際のところは職業病で考えてしまい味気ないが、シナリオ上の面でもおそらく、「体の重みを感じたということは、今ここで休んでおけ」――そういうことだ。
軽くシャワーを浴びて、横になることにした。
***
ここでの「シャワー」体験もまた面白いものだった。
シャワーブースの前に立つと、ピコンとモニターが出てきて、「シャワーを浴びますか?」と選択肢が出てくる。
「YES」を選ぶとぱっと光が降り注ぎ、体が綺麗になるという仕様だ。バスタオルも用意されていたが、それは雰囲気的なものらしい。
光の洗浄を終えて自分の匂いを嗅いでみると、たしかに洗いたての石鹸の香りがした。
続いてモニターが切り替わり、新たに問いかけられる。
『寝間着をご用意してあります。着替えますか?』
(寝間着か……別に寝心地などは気にしないが、どうしようか?)
ダオラ船長のときのように急に緊急アラームが鳴ることもあるかもしれないから、動きやすい姿でいたほうがいいだろうと判断し、ここでは「NO」を選んだ。
ピコン。選択を受け付けて、画面が切り替わる。
『承知いたしました。新しい洋服に着替えたいタイミングで、クローゼット前に立ち、話しかけてください』
了解、と。
寝ようと決めたら一刻も早く横になりたくて、ベッドに転がった。
このゲームは、至らないところもあるのだろうが、変なところで凝っている。翌日には、クローゼット前で「着替えますか?」と聞かれるんだろうな。
「NO」にして一度も着替えずにいたら、三日目には体臭を発していたりするんだろうか……なんて考えていたら、いつの間にか意識は穏やかな闇の中へと引き込まれていた。
***
(……んぁ?)
寒気を覚えて、瞼を開く。
布団をかけずに寝てしまったせいだろうか。ひと眠りしたはずが、数時間で目覚めてしまったらしい。
時計を確認すると、深夜の二時。二時間足らずしか寝ていないが、頭はまぁまぁすっきりしている。
(まだ起きるには早いよな)
寝返りをうち、二度寝する体勢に入ろうとして、ちょっと待てよ。
別に、このまま「眠らない」という選択肢もあるのではないだろうか?
惰眠をとらずに深夜の船内を散策する──それも可能だ。
(危険……だろうか?)
だが可能であるなら、なんでも試してみる価値はある。作られた世界で意味のないイベントなんて、起こるわけがないのだ。
少しだけ迷って、体を起こした。
決断が鈍らない程度には、すっかり目が冴えてしまっていた。
***
――プシュー。
扉が閉まる音が、昼間より数倍大きく聞こえる。
深夜の船内廊下は静まり返り、忍ばせた靴音すらも何重にも反響していた。
(思ったより不気味だなぁ)
とりあえずロビーに出てみようと思い、深夜の廊下を歩き進む。
廊下は非常灯のみに明かりが落とされ、昼間よりも一層、薄暗い。足音も、カツンカツンとよく響く。
途中で誰かに出くわしたら、それはそれで飛び上がってしまうな。こちらが不審者だと思われるかもしれないが。
どこか遠くで、ゴォーっと風の音が響いた。エンジンかモーターの音だろう。びくっとしてしまったじゃないか。
部屋を出てきたことを、若干後悔しはじめていた。大の男でも、怖いものは怖いのだ。
***
殺人鬼に襲われることもなく、ほどなくロビーに無事に到着した。そこはしっかりと明かりがついていて、ほっとする。
もちろん人影はない。
(誰もいない、か……)
そのまま先に進んで、展望ラウンジへと足を伸ばした。
***
――深夜の展望ラウンジ。
紫を基調にしたライトで照らされて、少し大人のムード感あふれる空間となっていた。
入ってすぐ、こちらに背を向けてソファに腰かけている人物に気づく。
「……あれっ。奇遇だなぁ」
相手を驚かさないよう、離れた位置から、わざと小さく声をかけた。
その人物がぱっと振り向く。長い銀髪がふわっと散り、さらりと垂れる――エレノアだ。
「……ライさん?」
(うぉぉ! やっぱり深夜イベントがあった! これは喜んでいい……のか? どうなんだ?)
ガッツポーズをとっていいかどうかはわからないが、内心の興奮は抑えられない。
表に出さないよう気をつけながら、
「ちょっと眠れなかったもので……ご一緒しても?」
気取って、そう尋ねた。
少し迷う風を見せながらも、彼女は首を縦に振った。
「ええ、……どうぞ」
座っていた位置を少しずれて、席を空けてくれる。
その瞳にわずかな緊張はあれど、敵意はないようだ。少しは信頼を築けているのだろうか。
カップルシートだったが、ゆったりしていて幅は十分ある。
くっつきすぎないよう、適度な距離を保って隣に腰を下ろした。
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