13.一日目・夜 晩御飯(3)
「さぁ、飲んでみて。感想を聞かせてくれる?」
相手が飲み干すまで去ろうとしないマーリンさん……。暴力的なまでの執拗さよ。
何も知らないヒカルは、グラスに手をかけ、ぐいっと飲み干し――。
「面白い味付けですね。美味しいです」
平然とうなずいている。
……ヒカルの舌はどうなっているんだ? 部屋に戻ったら、人物メモのところに「味音痴」と加えておこう。
マーリンさんは自信作を褒められて舞いあがってしまい、それからが大変だった。「コズミック・ディザスター・スペシャルミックスジュース」と名付けたらしいそれを、「他の人も、一杯どう?」と念入りに勧めてくる。
「わ、わたしたち、甘いものを食べているから……。かっ、カロリーも気になるし?」
「そ、そうそう。けっこうお腹いっぱいっていうかぁ~……」
女性陣は尋常でない汗を浮かべて、丁重にお断りしようと努力している。相当、怖い思いをしたのだろう……。
「そう? じゃあそちらのお兄さんは……」
ヒェッ! こっちに矛先が来た!
「い、いやー! ぼぼぼ、僕も食べるときは飲まないようにしてるんですよ。素材の味を大事にしたいっていうか。カレーライス美味しそうだなぁ、うわぁ人参が星の形だぁ、可愛いなぁ!」
「そうなの……? 残念だわ。じゃあ食後に気が向いたら、ぜひ注文してね! 待ってるから(ハート)」
のんべぇの言い訳みたいなセリフを口にして、劇物を回避した我々(ヒカルを除く)は、これ以上のリスクは負うまいとばかりに急いで料理をかきこみ、食堂を辞することにした。
いつの間にか、夢人の姿も消えている。ひとりで食べてひとりで部屋に戻ったのだろうか。
食事をしながらの情報収集に、話しやすそうな女性陣を選択したが、今となっては彼の存在も気になった。彼の人となりも、どこかで知る機会があるといいのだが……。
***
食堂のある一階ロビーから、エレベーターで二階へ上がる。
宿泊ルーム区画の十字路のところで、あーちゃんと宇佐美は左翼の通路へと去っていった。
こちらは尾っぽ側の通路へ。ヒカルは同じ通路に部屋があるから、途中まで一緒に歩くことになる。
女性陣がいなくなるとこれといって会話もなく、すぐに俺の部屋が見えてきて、ほっとする。
「……それじゃあ」
「……」
返事もなし。
だが、先を歩いていったヒカルが立ち止まって振り向いたので、こちらの部屋の指紋認証をしようとしていた手を止めた。
「おまえ。……ライとかいったな」
「……なにか?」
勝手に呼び捨てにされて不快だったが、絡むのも面倒だから黙っておく。
「忠告してやる。エレノアには気を付けた方がいい。彼女は怖いタイプだ。油断してると――殺られるかもしれないぜ?」
それだけ伝えると、ヒカルはニヤリと口角を上げ、廊下の奥へと消えていった。
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