13.一日目・夜 晩御飯(2)
「やぁやぁ、お三方、お揃いで。楽しそうだなぁ、僕も仲間に入れてくれないかな?」
首を向けると、こちらの顔の真横で笑っているのは、ヒカルだ。
ヒカルは我々の返事も待たずに、空席となっていたあーちゃんの隣に図々しく腰を下ろした。
宇佐美が明らかに不快そうに、眉をしかめる。
ロケットスタートの勢いさながらに、あーちゃんが大ボリュームで噛みついた。
「ちょっとぉ! あんた、このアタマ金ぴかヘルメット! どのツラ下げて馴れ馴れしくしてんのよ。まずは、うさみんに言うことがあるでしょうが!」
「わかってます、わかってます。宇佐美さん、あのときはすみませんでした。でもほら、推理はしないと。そういうゲームだから。ね? 僕ね、あれから冷静になって、反省したんです。女性を疑って申し訳なかったなと」
……あっさり謝ってきたな。
そのまま動向を見守っていると、
「今はもう疑っていないと?」
静かに、宇佐美が問い返した。
ヒカルは肩を竦めて、言った。
「あなたが犯人ではないと言い切ることはできません。だけど僕の推理は、そちらの彼にほとんど覆されてしまいましたからね。正直、白紙ですよ。完敗です」
思ったより素直な態度に、女性陣ふたりは、ヒカルの無礼を許すべきかどうか迷っているようだ。
たしかに「そういうゲームだから」と言われてしまうと、そのとおりだしな……。
そうこうしているうちに、存在感のあるNPCがキッチンから顔を出し、料理を運んできたため、会話はいったん中断した。
「は~い、お待たせ。お嬢さんたちが頼んだお品、お先にお持ちしたわよ」
マーリンさんが葉っぱの手を器用に伸ばし、テーブルにお皿をふたつ、配膳する。
あーちゃんが「ギャラクシアン・スターダストパフェ」。
宇佐美は「幾星霜ホットケーキ・マーキュリーソルトソースがけ」を頼んだらしい。
(こ、これが晩御飯なのか……?)
あっけに取られて眺めていると、
「あら、お兄さんたちふたり、ご注文はまだよね?」
何にする? と、マーリンさんが聞いてきたので、テーブル脇に立ててあるメニューを手に取った。
自分は無難な定食メニューから「宇宙カレーライス」を。
ヒカルは「じゃあ……」と悩んで「ブラックホールナポリタン」を注文する。
その流れで、結局ヒカルも同じテーブルで食事をすることに落ち着いてしまった。
「あっ、このパフェ美味しいわ。うさみん、一口食べる?」
「ホットケーキもなかなかよ。交換しましょうか」
スイーツがお気に召したようで、女性陣の機嫌も持ちなおしている。
なんだかんだでヒカルも会話に混ざり、ぎくしゃくした合コンのような雰囲気が漂っている……。
「自分は推理ゲームも好きだし、SNSも活用しています。フォロワーも多いですよ。せっかくのご縁だ。ゲームが終わっても、仲良くしましょうよ」
「えー……どうしよっかなぁ……フォロワーの数にもよるけど……」
「高尚な頭脳ゲームを出会いの場みたいにされると迷惑だわ」
「そう言わないでくださいよ。宇佐美さんだって、一人用の推理ゲームじゃつまらなくなって、対人要素があるMMVRを面白そうだと思ったんでしょう?」
「まぁ、それはそうだけど……」
しばらくして、マーリンさんが男性陣の食事を運んできて、会話が再び途切れる。
「ヘイお待ち! こちら宇宙カレー、そちらさんがナポリタンね!」
白いお皿の上に、ほかほかと湯気をたてるライス、とろりとしたブラウンのルー。そして食欲をそそる香辛料の香り。
ヒカルのナポリタンもイカ墨を使ったらしい本格派。鉄板プレート乗せに目玉焼きまでついて、ポイントが高い。
やっぱり定番メニューはちゃんと美味しそうだ。腕は悪くないんだ。ただ独創性を爆発させるときがあるだけで……。
マーリンさんの葉っぱが、ふいっと動いて、ヒカルの前にコトリとグラスが出された。
「そちらのお兄さん、当店のご利用は初めてよね? これサービスドリンクなの。どうぞ」
――うっ!? あの薄いピンクの濁った液体は……。
例の殺人サービスドリンクだ。
宇佐美とあーちゃんも、さっと蒼白になり、黙りこんだ。彼女たちもどうやらすでに洗礼済みのようだ。
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